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「第6回 涸沢の紅葉を追って」

日本一の紅葉の名所と言えば、北アルプスの涸沢であろう。紅葉が最も美しくなる条件が涸沢ほど整っている所は、他にないと思われるからである。

条件その1は、急激な温度変化である。標高の高い山岳地域ほど温度変化が激しいのはどなたでも知っていよう。

条件その2は、赤く染まるモミジやナナカマドが多いことである。ダケカンバなどの黄色も美しいが、紅葉というからには紅色がなくてはならない。涸沢は登山道に沿ってモミジやナナカマドが非常に多い。その種が多くの登山者の衣服について運ばれたからかも知れない。

条件その3は、周囲の景色が美しいことである。紅葉は美しい景色があってこそだ。涸沢は言うまでもなく、美しい穂高連邦にぐるりと囲まれている。紅葉だけを比較すれば、槍沢の方が美しいと思うが、残念ながらヘリからでも見ない限り、槍ヶ岳の勇姿とともに槍沢の広大な美しい紅葉を見ることはできない。

涸沢の紅葉が最も美しくなるのは、モミジやナナカマドが真っ赤に染まるとともに、穂高の山頂が雪化粧をしたときである。空の青を加えて、青、白、赤の三段染めと言われている。さらに、穂高の岩の黒と横尾谷の緑を加えて五段染めとも言われる。

だが、この美しい紅葉を見るのは容易ではない。私はこの5年間、毎年紅葉の時期に、週末を利用して涸沢に通っているが、まだ美しい三段染めを見てはいない。それは、台風で塩を含んだ風が葉を枯らしてしまったり、季節はずれの大雪で葉が枯れ落ちてしまったりするからである。ところで、赤茶色に枯れた葉を見て、「さすがに涸沢の紅葉は美しい」などと言って一生懸命に写真を撮っている人たちをみると、本当の美しい紅葉を見せてやりたいと思う。

ではどうすれば涸沢の美しい紅葉に出会えるのか。山小屋に電話してもムダである。山小屋も商売だから、10年来の不作と言われた年でさえ、涸沢ヒュッテに電話すると、「ちょうど今が見頃ですよ」と言われたのだから。

奥穂高山荘のオーナーである今田氏の話によると、例年の紅葉の見頃は9月25日から30日まで、とのことである。また、「本当に美しいのは1日だけなので、1週間は滞在しなければだめだ」とも言われた。だが、私は、もし台風や大雪の襲来がなければ見頃は9月27日から10月5日まで、とみている。

山岳写真家の山下喜一郎氏の記述によれば、夏の台風が北アルプスの上空を通過した年には、秋の紅葉はだめになるという。台風は、秋の高気圧であるシベリア気団と夏の高気圧である小笠原気団との谷間に沿って進むので、夏の高気圧の勢力が弱いと夏の台風が北アルプスの上空を通過するようになる。そうなればまた、早くに秋の高気圧が日本に張り出してきて、その前線に沿って季節はずれの大雪が降ることにもなる。逆に、夏の高気圧の勢力が強く残暑が厳しい年には、雪が遅くにやって来て急激に温度が下がるので、紅葉がより美しくなるのである。ちなみに昨年は冷夏であり、夏にいくつもの台風が上陸している。

気象庁のお天気相談所によれば、例年の富士山の初冠雪は9月30日(河口湖測候所)であるという。富士山より標高の低い穂高で初冠雪があるのはその数日後となろう。ちなみに、昨年の富士山の初冠雪は9月22日であり、その数日後に北アルプス一帯は大雪に見舞われ、紅葉する前に全滅してしまったのである。

台風の進路と富士山の初冠雪とに注目していれば、涸沢の美しい紅葉に出会えるのではないだろうか。私は学生時代に、たまたま涸沢の三段染めの紅葉を見て、あまりの美しさに自然に涙があふれ、穂高がゆがんで見えたのを覚えている。あの時の感動をもう一度味わいたいと思うのである。

※ 『新ハイキング』誌、'98年10月に掲載されたものに加筆修正したものです。

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