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第52回 山でクマに出会ったら

最近、クマに出会ったというニースが多い。クマに襲われて大けがをしたり、殺されたりしている。

50年以上、山歩きをしてきた私も、これまでに3回、山でクマに出会ったことがある。最近の例だと、数年前に東丹沢の三峰コースを歩いていた時に出会った。目の前でガサッと音がしたので何かなと思って近づいて見ると、クマが走って逃げていく姿が見えた。また、獣の臭いがした。下山口の三叉路で村の人に聞くと、このあたりは昔からクマがよく出るという。そう言えば、三峰コースは主脈縦走コース、主稜縦走コースと並んで、丹沢三大縦走コースの1つだが、あまり人が歩かない。やはり、メインの縦走コースではないからだろう。

丹沢ではシカによく出会う。シカは少し離れていても臭うので近くにシカがいることが分かる。また、シカは人間に出会っても走って逃げたりしない。少し離れたところでじっとこちらを見ている。食べ物をもらえないかと思っているらしい。実際に、ポケットから食べ物を取り出すと寄ってくる。食べ物をもらえそうもないと分かると、ゆっくりと去っていく。去っていく後ろから、「こっち向いてホイ!」と声をかけると、立ち止まって、こっちを向く。

シカのからだは保護色になっているので、山の中ではどこにシカがいるのかよく分からない。しかし、逃げるときには白い尻をこちらに向けるので良く分かる。そこを、「こっち向いてホイ!」で立ち止まらせて、顔をこちらに向けさせる。すると、白い尻をこちらに向けたまま、しばらく立ち止まって、不思議そうな眼をしてこちらを見ている。5、6匹の集団の場合も同じ。「こっち向いてホイ!」でシカの集団が一斉に立ち止まってこっちを向く。面白いので、私はシカに出会った時には必ずやる。

この、シカに「ホイ!」と声をかけると、立ち止まってこっちを向くという習性は、実は昔、猟師(マタギ)から聞いた。マタギはシカ狩りの時に、シカを見つけると、「ホイ!」と声をかけてシカを立ち止まらせ、白い尻を目印にして頭を狙って引き金を引く。しかし、クマには「こっち向いてホイ!」は通用しない。クマは通常は人を恐れて逃げるが、時には人を襲う。マタギがクマを仕留めるには、クマがマタギを襲うように仕向ける。逃げられては元も子もない。

クマは相手が自分より弱い動物だと分かると必ず襲ってくる。だから、クマに襲わせるには後ろを向いて逃げるそぶりをする。すると、必ず襲ってくる。そこで、振り返って対峙し、目を見て威嚇する。すると、クマは立ち上がって自分を大きく見せてこちらを威嚇する。そこで、心臓を狙って引き金を引く。

弾が外れた時にはクマは一目散に逃げるか、それとも死に物狂いで襲ってくる。マタギはどうするか。昔の一人マタギの鉄砲はたいていは単発銃である。つまり、すぐには2発目を撃てない。マタギには一人マタギと言って、獲物が獲れるまで一人で山を歩き回るマタギがいる。一人マタギは荷物を軽くするために軽い単発銃を使う。そのため、一人マタギは1発で仕留める銃の名手でもある。だからこそ、必ず心臓を狙う。しかし、時には外す場合もある。

クマは木登りが得意だから、木に登ってもダメである。では、死んだふりはどうか。これもダメである。死んだふりをしても、クマは食べ物かどうかを確かめるために、前足でつついたり、くわえてみたりする。走って逃げてもクマの方が足が速いから必ず襲われる。 では、マタギはどうするか。実はマタギはこんな時のために、銃と共に常に丈夫な杖を持ち歩いている。この杖は銃を撃つときに手振れしないように、銃を支えるためでもある。この杖でクマを追い払いながら後ずさりし、その間に弾込めをする。そして、撃つ。

では、もし、あわてて銃も杖も手から離してしまった時にはどうするか。ベテランのマタギがそんなことをするわけがないが、万一、そんなことをしてしまったら、こうする。上着を脱いで両手で高く持ち上げて、威嚇しながら上着を生き物のように前後左右に振る。すると、クマは逃げていく。クマは自分より大きな生き物は襲わない。勝ち目がないからだ。

実は、この話が本当かどうかを、マタギの家で試してみた。このマタギはかつて、子連れと知らずに母グマを撃った。すると小熊が2匹、死んだ母グマの周りを歩き回って離れようとしない。そこで、2匹の小熊を家に持ち帰った。そして、許可を得て自宅で飼った。最初は猟犬と同じように首輪をつけて犬小屋で飼った。そのうち、クマが大きくなったので、クマ用の丈夫な檻を作って入れた。

私がこの檻に近づいて行くと、2匹のクマもこちらに近づいて来る。餌をもらえると思ったのか。それとも、私を餌だと思ったのか。そこで、上着を脱いで両手で高く持って、前後左右に振ってみた。すると、2匹のクマは一目散に檻の隅の方に逃げて行った。

私は山歩きをするときには、いつも腰にポシェットを着けている。ポシェットの中に、タオルや行動食などと一緒に、ビーチ・シートを入れておく。山で座って食事をするときや昼寝をするときに使うのだが、クマに出会った時にも使おうと思っている。ポシェットから取り出して、広げて両手で高く持ち上げてバサバサと煽ってやれば、クマはきっと逃げていくに違いない。

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