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第50回 山道はゆっくり歩くものだ

最近、低い山を歩いていると、山道を走っている人にたまに出会う。胸と背中にゼッケンを付けているのを見ると、どうやら競技として行っているらしい。このような人たちは当然若者で、子供づれの家族や年寄りがハイキングを楽しんでいることには無頓着である。どけどけと言わんばかりに走り抜けていく。

後ろの方からピッピッー、ピッピッーと笛の音が聞こえてきた。何事かと思ったら、ランナーが笛を吹きながら走ってくる。要するに「そこをどけ!」という意味の笛だ。ここは走るための道ではない。街の道路で前をもたもた走っている車にクラクションを鳴らして注意喚起するのとはわけが違う。

山道はゆっくり歩くものだ。景色を眺めながら、花をめでながら、小鳥の声を聴きながら、あるいはときどき立ち止まって休みながら歩くものだ。

彼らの身支度はというと、マラソンランナーと同じである。靴はハイキングシューズではないし、服装も軽装だ。荷物はほとんど持っていない。ペットボトルを入れた小さなバックを背中にたすき掛けで背負っている。どうやら、雨具も着替えも持っていないようだ。おそらく救急道具も持っていないだろう。山道で走ればつまづいてころびやすい。けがをして歩け(走れ)なくなる可能性が高い。足を踏み外して谷に落ちることもあろう。

狭い山道を小学生の男の子とその母親の二人ずれで歩いていた。前の方からランナーが走ってきた。母親は山側によけたが、男の子は谷側によけた。そこへランナーが走りながら通り過ぎようとした。その時にランナーの振る手がわずかに男の子の体に当たった。男の子はあっと言って一歩後ろに下がった。その途端、谷に落ちた。あーと言いながら落ちた。ランナーは気づかなかったのか、あるいは気づいたのかわからないが、そのまま走り去った。

後ろからこの様子を見ていた私は、すぐに谷をのぞいた。母親も驚いて谷をのぞいた。落ちた男の子は幸いにも数メートル下で止まりすぐに立ち上がった。柔らかい土だったので大きなけがもしなかったようだ。自力で谷から上がってきて、「おっこっちまったよ」と言って笑った。少しすりむいただけだった。母親は、「どうしてそちら側によけたの、こちら側によければよかったのに」と言っていた。そこへ父親らしい人が来た。どうやら二人に遅れて歩いていたようだ。

父親は事情を聞いて、ひどく憤慨した。「子供を突き飛ばして谷に落とすなんてひでえ奴だ、そいつをとっ捕まえてやる」と言った。しかし、父親には走って追いかける元気などない。

自宅に帰ってから調べてみると、最近、山を走るのがはやっているようだ。トレイルランニングとか、山岳マラソンとかと呼ばれているらしい。欧米のマネだ。しかし、欧米と異なり、日本の山は高低差があるし、道は狭いので走りにくいだろう。そのためか専用の靴などもあるらしい。大会も定期的に行われているようだ。しかし、通常のマラソンと異なり、沿道で応援する人はいない。また、監視人もいないし、救護所も山の中にはない。もし、途中で体調を崩したり、けがをしたりしても救急車は来ない。これは山歩きと同じで自己責任である。

考えてみれば、このことは歩道を自転車で走るのに似ている。歩道は本来人が歩くところである。道路交通法では歩道を自転車で走るのは基本的には禁止である。歩道を自転車で走ってよいのは許可された歩道だけである。許可された歩道でも歩行者優先だから、もし、自転車と歩行者とがぶつかったら、理由を問わず100%自転車が悪い。歩行者に怪我でもさせたら大変だ。もし、歩行者が倒れて頭を打って死んでしまったら、数千万円以上損害賠償しなければいけない。

道路交通法では、本来、自転車は車道を走らなければいけないことになっている。しかし、私はできるだけ車道は走りたくない。車道を自転車で走るのは危険だからである。私は若い時にバイクで走っていて後ろから来たトラックに撥ねられ、反対車線の路肩まで10メートル以上バイクごと飛ばされたことがある。バイクでもそうなのだから自転車などひとたまりもない。自転車で車道を走るか歩道を走るかは自由なのだ。例え自転車が許可されていない歩道でも私は歩道を走る。道路交通法など関係ない。死ぬか生きるかの瀬戸際に法律など関係ないのだ。法律を守って車道を走っていたら車に撥ねられて死んでしまった、では何もならない。

山岳ランナーが山道を走ることと自転車が歩道を走ることとは同じ問題である。若いランナーが荷物も持たずに体力に任せて山道を走るのは、自転車で歩道を走るのと同じである。私は自転車で歩道を走るときには、歩行者優先を守っている。もし、事故を起こして損害賠償することになったら大変だからである。これと同じで山道ではハイカー優先にすべきである。狭い山道ではハイカーと同じように順番を守るべきである。どけ、どけと言わんばかりに笛など吹かないで欲しい。ハイカー優先は山岳マラソンのルールにすべきである。

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