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第45回 山の歩き方はナンバ歩き

ナンバ歩きとは、日本古来の歩き方で、歩幅を小さくし、足と肩とが同じ方向に動く歩き方である。つまり、右足が前に出るときには右肩も前に出る、左足が前に出るときには左肩も前に出る、という歩き方である。この歩き方は現代の人にとってはおかしな歩き方に思えるが、非常に合理的でムダのない歩き方なのである。西洋の歩き方のように、ムリに歩幅を広くしてかかとから足を下ろすようにしたり、ムリに上半身をひねって手と足の動きを逆の方向にしたりしないので、自然の歩き方なのだ。

重い荷物(たとえば人)を背負って、階段を登るときのことを想定してみよう。まず、左足に体重をかけ重心を左足に移す。そして、右足を持ち上げ一段上の階段に右足を乗せる。次に、右足に体重をかけ重心を右足に移す。すると、自然に右足の裏全体が地面にしっかり着く。それに伴って自然に右肩が前に出る。次に、右足に力を入れて体全体を持ち上げる。すると、左足が浮いて地面から離れる。そのまま左足を持ち上げて次の一段上の階段に左足を乗せる。左足に体重をかけると左足の裏全体が地面にしっかりと着く。すると今度は、自然に左肩が前に出る。次に、左足に力を入れて体全体を持ち上げると、右足が浮いて地面から離れる。これの繰り返しで階段を登る。

今度は、重い荷物を背負って、階段を下りることを想定してみよう。まず、左足に体重をかけ重心を左足に移す。そして、右足を前に出して階段を一歩下りる。右足に体重をかけて左足を地面から離す。すると、右肩が自然に前に出る。次に、左足で階段を更に一歩下りて、左足に体重をかけると、今度は左肩が自然に前に出る。以上がナンバ歩きである。ナンバ歩きとは自然の動きなのだ。つまり、余分な力を使わないで歩く方法なのである。

この方法は階段の登り下りだけではなく、平らな地面でも同じようにして歩くことができる。重い荷物を背負って、平らな地面を歩くことを想定してみよう。まず、荷物が重いので、体を安定させるために両足を肩幅程度に開いて、つまり自然体で立つ。左足に体重を移して右足を持ち上げて一歩前に出して地面に下ろす。右足に体重を移して左足を持ち上げる。すると、自然に右肩が前に出る。次に、左足を一歩前に出して地面に下ろす。そして、左足に体重を移すと左肩が前に出る。これの繰り返しだ。重い荷物を背負っているときには自然にこのような動きになる。つまり、重心が右足から左足へ、左足から右足へと移動しながら歩くので、体全体が振り子のように左右に少しゆれながら歩くことになるのである。

軽い荷物でも、あるいは荷物を持たない時でも、同じようにして歩けば、余分な力を使わずに歩くことができる。この場合には、重心の移動が容易にできるので、あまり体全体が左右にゆれることもない。もし、どうしてもナンバ歩きができない人は、両手をズボンのポケットに入れたまま歩いてみればよい。つまり、両手を前後に動かさないで歩いてみれば自然にナンバ歩きができる。このときに気付くだろうが、上半身は余分な力を使っていない。江戸時代の人たちの歩き方はナンバ歩きであった。時代劇などでは俳優が西洋式の歩き方をしてしまうので、分からないと思うが、記録によればナンバ歩きであった。さらに、ナンバ歩きではなくナンバ走りもできる。江戸時代の飛脚はナンバ走りであった。ナンバ歩きやナンバ走りは余分な力を使わない、体の自然な動きなので、あまり疲れないで歩いたり走ったりすることができる。

ナンバ歩きは明治時代以前の日本人の日常の歩き方であったという。昔からある盆踊りや阿波踊りなどの動きを見ても、柔道・剣道・空手道などの武術の動きを見ても、ナンバ歩きであることがわかる。 明治以降、西洋文明が入ってきてから、日本人の歩き方はナンバ歩きから、ムダな動きをする西洋人の歩き方に変わってしまった。その原因は、明治時代に富国強兵により、軍事教練に西洋式軍隊の歩き方や整列・行進の仕方が導入されたからである。

学校でも、体育の授業に西洋式の歩き方が用いられた。西洋式の歩き方は右足を前に出すと同時に上半身をひねって左手を前に出す、左足を前に出すと同時に上半身をひねって右手を前に出す、という歩き方である。そして、歩幅は広く、足がかかとから地面に着くようにして歩くのである。つまり、足と手は前後逆に、交互に動かして歩く方法である。西洋式の歩き方を導入した理由は、おそらく西洋の方が文明が進んでいるからとか、単にかっこいいからということだろう。日本より西洋の方が優れていると勘違いした日本人の島国根性がそもそもの原因であろう。

最近では日本古来のナンバ歩きやナンバ走りが見直され、いろいろなスポーツに取り入れられている。たとえば、典型的な例がマラソンである。昔は、腕をできるだけ前後に大きく振って、ひざが胸に付くぐらい高く上げ、歩幅をできるだけ広くして、かかとから着地する走り方をしていた。その方が早く走れると学校で教わった。しかし、現在ではそういう走り方はしない。少し前傾姿勢になって、歩幅は広くとらないで、足をかかとからは着地しない。足の親指の付け根(拇指球)あたりで着地する。よって、靴のかかとが減らない。

要するに、足首のバネを利かして走るので骨に衝撃が少なく、足首、ひざ、腰などを痛めることがない。上半身は当然、ムリにひねったりせず、ほとんど力を入れない。左右の腕は前後にムリに動かさない。自然にリズミカルに動かす。だからムダな動きがなくあまり疲れない。これが現在の正しい走り方である。つまり、ナンバ走りなのである。現在の日本のマラソン選手の走り方はすべてそのように変っている。実は、オリンピックで金メタルを取ったジャマイカのマラソン選手もナンバ走りである。アフリカでは子供のときからみんながナンバ走りなのである。日本のマラソン選手の多くがアフリカの選手の走り方を見て、最近になって改めてナンバ走りを見直したのだという。

では、山の歩き方はどうかというと、最初に書いたように重い荷物を背負って山を歩くときには自然にナンバ歩きになる。荷物が重いので自然にムダな動きをしないようにするからだ。しかし、軽い荷物のときには、どうしても昔学校で教わった西洋式の歩き方になってしまう。すっかり体に染み付いてしまっているのだ。本来、山の歩き方は昔からナンバ歩きであり、現在でもナンバ歩きなのである。その方がムダな力を使わないので疲れない歩き方なのである。それに、足首、ひざ、腰などを傷めることがない。よって、ナンバ歩きに慣れると山歩きがずっと楽になる。

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