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第44回 「通行止め」は下山ルートでよく出会う

先日久しぶりに東京に雪が降った。神奈川県の丹沢・大山地域にも雪が降った。私は毎年、初詣ついでに大山に登ることにしている。大山は人気があって、いつ行っても混んでいるが、特に正月は一年で最も混む。そこで、いつも正月半ば過ぎ、混雑が少し和らぐころに初詣に行くことにしている。

初詣だけが目的の人は、中腹にある阿夫利神社下社までケーブルカーで登って、お参りしてケーブルカーで下って帰る。しかし、初詣のついでに山歩きをする人は、ケーブルカーを使わないで歩いて登り、下社でお参りしてから、さらに頂上の本社まで登る。下社からは太平洋が一望でき、眺めがよいこともあって、多くの人が下社付近でたむろしている。私はここには何度も来ているし、人がたくさんいるところはあまり好きではないので、お参りして少し休憩したらすぐに頂上へ向かった。

頂上へ向かう人の多くは、石段が続く急な参道を登るが、私は「かごや道」と呼ばれている、なだらかなわき道を登った。誰もがそうであろうが、私は階段の道が好きではない。自分に合った歩幅で、また、自分に合った一歩一歩の高低差で歩くことができないからだ。「かごや道」を歩く人は非常に少なく、私は静かな雪の山道を歩くことができた。多くの人はおそらく、「かごや道」を知らないのだろう。この道は昔、「かごや」が人を乗せて登り下りした道らしく、歩きやすい道なのである。途中から多少傾斜が急になり雪が多くなったので、軽アイゼンとスパッツを着けた。

「かごや道」は途中で石段の参道と合流する。そこで、必然的に大勢の人と合流することになる。すでに頂上まで登ってから下ってくる人と、これから登る人とが入り混じってにぎやかである。下ってくる人のほとんどがアイゼンをつけていないので、滑りやすい。しりもちをつく人がかなりいる。それでも登る人は途中で引き返そうとはしない。石段はしりもちをつくと痛いがあまり危険はないからだろう。

頂上に着くと、三々五々休憩したり、お昼を食べたりしている。ここへ来るたびに見る、いつもの光景だ。そしてまた、ここへ来るたびに私は中学時代のことを思い出す。それは、クラスメートと初日の出を拝みにここへ来たときのことである。早めに着いて、初日の出を待つ間寒いし眠いので、本社の社殿の奥に入り込んで寝ていた。そしたら、神主に見つかって、「神様を何だと思っているのか」とこっぴどくしかられた。大勢の人たちが、私達に向かって手を合わせていたのだから、元旦早々私達はとんでもないことをしたものだ。神様が怒ったのか、明るくなっても周囲はガスでかすんでいて初日の出は拝めなかった。ところが、しばらくして下山しようとしたとき、周囲が赤紫色のかすみに覆われてなんとも美しい情景に変わった。朝日が細かな水滴に当たって光が散乱し、赤紫色になったものと思われる。

さて、そんな中学時代のことを思い出しながら、私も昼飯をゆっくりと食べてお茶を飲んでから下山することにした。いつものように、見晴台を経由して日向薬師に下るコースを歩くことにした。山頂から見晴台までのコースタイムは1時間10分で、見晴台からケーブルカーのある下社までは20分なので、合計1時間30分程度で下社に着いてしまう。これでは物足りない。そこで、いつも日向薬師まで歩くことにしていた。見晴台から日向薬師まではコースタイムが1時間20分なので、山頂からだと2時間半になる。休憩しながら歩いて3時間程度なのでちょうど良い。登山口から山頂までの登りが3時間程度で下りも3時間程度、合計で6時間程度歩くことになり、日帰り山行としてはちょうど良い時間となる。

このコースは中学時代から毎年、頻繁に歩いているので、道の様子はよくわかっている。山頂から下り始めてふと気付いた。下から登ってくる人がいつもより極端に少ないのだ。すれ違う人がほとんどいない。なぜだろうか? わからないまま見晴台まで下った。そこで休憩していると、下社の方から登ってきた人が、「通行止めになっていて下社に行けない」と言った。どうやらここ見晴台から下社に行こうとしたが通行止めになっているので戻ってきたらしい。詳しく聞いてみると、途中で谷を渡るところがあるのだが、そこで雪崩が起きて道をふさいでいるという。

頂上から下る途中で疑問に思っていた、下から登ってくる人が極端に少なかった理由がこれでわかった。頂上には「見晴台から下社へのルートは通行止め」の案内がなかったので、この後も、下社へ下る予定の人たちが大勢頂上から下ってくるはずだ。今はまだ午後の2時半なので、ここ見晴台から日向薬師まで明るいうちに下ることができるが、遅くなると途中で暗くなってしまう。下社へ下る予定だった人が、もし、ヘッドランプを持っていなかったら、日向薬師まで下る途中でビバーク(不時露営、野宿)することになる。

登山ルートに「通行止め」はよくある。丹沢・大山地域は特に多い。台風や大雪でよく通行止めになる。その理由は、丹沢の丹は谷の意味で、丹沢には文字通り谷や沢が多く、がけ崩れや雪崩がよく起きるからだ。丹沢は沢登りのメッカとしても知られている。一方、大山は阿夫利山とも雨降山とも言う。昔からこの地域は雨が多いからだろう。このためか、阿不利神社は豊作や商売繁盛の神様として江戸時代から信仰されている。また、豊富な水を利用した豆腐づくりが盛んである。

「通行止め」は下山ルートで、もうすぐバス停だというときによく出会う。なぜなら、谷や沢は山すそで崩れやすいからである。積もった土砂や雪が山すそで重くなるためである。「通行止め」に出会うと、登り返して他の下山ルートから下山しなければならない。すでに疲れているし、水や食料なども少なくなっているので、遭難の原因になることがある。よって、そのための心づもりと体力の余裕と装備とを常に備えておく必要がある。また、あらかじめ「エスケープ・ルート」を念頭に入れて山歩きをしなければならない。

ところで、下山ルートは登山ルートでもあるが、登るときに「通行止め」になっていても登れないだけのことで、何も問題にはならない。下山のときにこそ問題になるのである。

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