次ページ  目次

経営相談どっと混む

第41回 「道草の山歩き」は安全で安心

私の山歩きの方法は、言ってみれば「道草の山歩き」だ。というのも、山歩きをするときにはいつも計画を立てず、行き当たりばったりだからだ。山を歩いている途中で気の向くままにルートを変える。

朝起きて、今日は山へ行こうと決めたら、丹沢にしようか、八ヶ岳にしようか、それとも北アルプスにしようか、と山域を決める。次に、まず、地図をザックのポケットに入れる。そして、山へ行く恰好をしてから、お湯を沸かしてサーモスに入れ、ザックに入れる。そしたら財布を持って出かける。ぐずぐずしている時間がもったいない。ただし、夏の高山と冬の低山の場合は、軽アイゼンを追加してザックに入れる。スリーシーズンの低山なら、ザックは準備してあるままである。

いつでも山へ行く準備はしてある。だから、行きたくなったら山の格好をして、予定の山域の地図をポケットに入れて、財布を持ち、靴を履き、ザックを背負えば出かけることができる。ザックは玄関にいつでも置いてある。私の経験では冬の高山を除けば日本のどの山でもザックの中身は同じでかまわない。基本装備(通常装備と非常装備)を常にザックに入れておけばよい。スリーシーズンの低山なら、全く同じでよい。夏の高山と冬の低山のときだけ軽アイゼンを追加すればよい。

自宅を出たら、どの登山口から登るか、つまりどの駅まで切符を買うかを自宅を出てから駅に着くまでに決める。水と食料は駅のコンビニで買う。電車に乗ってから考え直し、別の駅で降りることもある。一応、登山口で計画書を書いて投函するが、山を歩きながらルートを変更することがよくある。こんな歩き方をしているので、「道草の山歩き」なのである。

私は計画的に行動することが嫌いだ。そもそも、山では計画的に行動できるとは限らない。仕事をするときや人と一緒に行動するときには計画的に行わなければならないが、一人で山歩きをするときにはそうする必要はない。私はほとんど単独行なので、好きなときに好きな山の好きなルートを好きなように歩くのだ。予定のルートで道が崩れて通れなかったり、途中で疲れてルート変更したりする場合もあるが、多くの場合にはそのときの気分でルートを決める。景色の良いところでゆっくり過ごしたり、歩き疲れたらどこでもビバーク(不時露営)したりする。計画的に行動するよりも楽しいし、無理をせずに山歩きが楽しめる。

私は小学生のころから道草が好きだった。学校のすぐ近くに家があって、始業のチャイムが鳴り始めたらすぐに家を飛び出し、裏の畑を突っ切って走って行けば、チャイムが鳴り終わるまでに着席できる。だから、授業が終わってから家に帰ると、すぐ家に着いてしまうのでつまらない。しかも、ほとんどのクラスメートは私の家とは方角が違うので、学校の行き帰りはいつも一人だった。そこで、遠回りして桑の実を採って食べたり、あぜ道に生えているノビルを採って、家に持って帰って味噌をつけて食べたりした。文字通り毎日道草を食っていた。

「道草の山歩き」は楽しいとは言っても、それなりの知識・経験と準備が必要だ。装備に関する知識や山の歩き方、地図読み、観天望気などの山歩き技術が必要であるし、予備の水や食料だけでなく、どこでもビバークできるだけの非常装備をいつも持ち歩かなければならない。しかし、そうしたことは結果的に安全・安心に山歩きができることになる。予備の装備や非常装備の重さは約2キロになるが、その程度の装備で安全・安心に、しかも、自由奔放に楽しく山歩きができるのだ。

数人のグループで山歩きをしている人たちや、ハイキングクラブなど集団でハイキングをしている人たちを見ると、荷物があまりにも少ない。聞いてみると、ほとんどの人が予備の水・食料や非常装備を持っていない。日帰りだと着替えやヘッドランプすら持っていない。何かあったときにはどうするのかと聞いても、そんなことはめったにないから大丈夫だと言う。計画的に歩いているし、登山計画書も提出しているし、問題はないと言う。しかし、ほんとうにそうだろうか。山ではいつも計画どおりに行動できるものではない。

「道草の山歩き」をするために、私はいつも人より2キロ程度多めに荷物を背負っているが、実は、最近は年をとったせいか、そのことが苦痛に思えるようになって来た。そこで、試しに予備の水・食料や非常装備などを持たずに山歩きをしてみることにした。すると、かなり楽なのだ。しかし、山歩きを楽しめない。どうしても計画通りに歩かないといけないからだ。もし、途中で疲れたり天気が悪くなったりして、計画通りに歩けなかった時のことを思うと、それがプレッシャーになってしまう。そこで、間違いだと気づいた。やはり、「道草の山歩き」が安全・安心に山歩きができる方法なのだ。

そのうえ、健康の源にもなっていることに改めて気づいた。通常、日帰りハイキングでは、7、8キロ程度の荷物を背負う。ところが、私は10キロ程度の荷物を背負っている。それが私にとってちょうど良い荷物なのだ。日帰りハイキングでも、一泊小屋泊まりハイキングでも、私はいつも同じ荷物を背負っている。よって、1キロ体重が増えると体重計で測定しなくても分かる。なぜなら、いつもより荷物が1キロ増えるのと同じだからだ。1キロは水1リットル分だ。2キロ体重が増えると1升ビン1本分増えることになる。よって、それだけ、荷物が重くなるので山歩きがつらくなる。そこで、体重を減らす努力をすることになる。

私は元来太りやすい体質で、油断しているとすぐに太ってしまう。だから、「道草の山歩き」を満喫するために常に太らないように気をつけている。このことが結局、健康の維持にもなる。また、当然だが、山歩きは運動だから、それだけ心肺機能も高まるし、多くの汗をかくので塩分や老廃物を体外に排出し血圧も安定する。また、何よりストレスの発散になる。

ところで、登山家で女医さんでもある今井道子さんは、箱根の金時山で出会ったときに、「山はお医者様、私のお医者様は山です」と言っていた。「山歩きをすると自分の健康状態がわかるので、山が自分を診察してくれるようなものです」と言っていた。しかも、「多少、体調が悪いときには治してもくれる。大量の汗をかいて、血液循環もよくなって、老廃物を体から出してくれる。心臓も肺も肝臓も腎臓も良くなる。ストレスも解消する。だから、山は私のお医者様なの」と言うのだ。「山は私に医学を授けてくれた先生でもあるんです」とも言っていた。今井道子さんは医学生の時から山歩きが人の健康にどのように影響するかを研究している。ご自分の体を使って、いろいろな実験をしたらしい。これらの研究でいろいろな医学に関する賞をとっている。

人間は2本足で歩く生き物だ。はるか昔、人間が2本足で歩くようになったときから、今日までづっと2本足で歩いてきた。しかも、荷物を背負って歩いてきた。生きるための水と食料と衣類などの生活物資を背負って歩いてきた。さらに、野山を歩き回って獲物を獲ったり、海の物と山の物とを物々交換するために、獲物を持って峠を登ったり下ったりした。このようなことを人間は何十万年もの長い間行ってきた。このため、人間は荷物を背負って野山を歩くのに適したからだになった。だから、荷物を背負って野山を歩くことは人間に最も適した運動だ。これ以上健康によい運動は他にない。

Ⓒ 経営相談どっと混む

次ページ  目次