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第38回 冬の高山歩きについて

冬の高山歩きについて書いてみようと思いますが、私はそれほど技術・経験があるわけではありません。山歩きの経験は中学生のときからで、50年以上になりますが、私は高所恐怖症なので岩登りや沢登り、あるいは氷壁登攀などはしません。つまり、ザイルを使用する登山はしません。要するに一般ルートの縦走だけです。また、私はほとんど単独行なので、それだけ慎重ですし、技術・体力と装備との兼ね合いを十分に考慮して山に行きます。冬の高山を単独で歩く人は少ないですが、ザイルが必要な場所に行く人も少ないのです。つまり、ほとんどの人はザイルがなくても歩ける一般ルートを歩いているのです。

まず、気候ですが、ご存知のように日本の冬は日本海側は雪が多く、太平洋側は雪が少ないのです。したがって、北アルプスでは冬はほとんど毎日雪が降っていて、晴れる日はまれです。一ヶ月に2日か3日程度晴れる日がありますが、天気予報で晴れと言っても雪が降っています。なぜなら、晴れというのは空に雲が2割以上8割以下存在する状態を言いますので、半分以上曇っていても天気予報では晴れなのです。しかも、その雲は冬では雪雲ですから、当然、雪が降るわけです。

当然ながら、中央アルプスは北アルプスより晴れの日が多く、南アルプスはさらに晴れの日が多いということになります。また、冬山入門の山として知られている八ヶ岳は中央アルプスに近いですから北アルプスより晴れの日が多いわけです。しかし、だからといって侮ってはいけません。なぜなら、晴れの日は放射冷却によって、より寒くなるからです。北アルプスは常に曇に覆われているので零下15度前後ですが、八ヶ岳で晴れると零下20度前後になります。快晴の日は特に寒くなります。天気が良いといって喜んで油断していると凍傷にかかってしまいます。

冬の高山では特に凍傷に気をつけなければいけません。私の経験では零下10度以下になると凍傷の危険度が高くなります。八ヶ岳で鼻の頭が白くなっている人をときどき見かけます。凍傷になる前兆です。鼻の頭は寒風にさらされやすく、凍傷にかかりやすいのです。本人は感覚がなくなっているので気がつかないのです。すれ違うときに気づいたら注意してあげましょう。目はゴーグルで覆い、鼻から下はマフラーかネックウォーマーで覆うようにします。息がしやすいようにゆるく覆います。よって、私はネックウォーマーよりマフラーを使います。マフラーは頭から覆うこともできますので暖かいし、温度調節しやすいからです。

冬の高山でもう一つ気をつけなければいけないことがあります。それは風です。山では常に風が吹いていますが、特に冬は強い風が吹きます。通常、風速10メートルから20メートルぐらいですが、30メートル以上の台風並みの風が吹く場合もあります。風が強いときには前傾姿勢でピッケルで体を支え、さらにピッケルと二本の足を正三角形の形にして3本のうち常に1本だけを動かして歩きます。なぜなら、風の方向が常に変化するので、どの方向から吹いてきても飛ばされないようにするためです。休憩するときにはザックを下ろしてそのまま置いておくと風で飛ばされてしまうので、必ずピッケルでザックを固定してから休憩します。もちろん、自分自身も飛ばされないようにピッケルと自分とを必ず紐で結んでおきます。

風が吹けば風速1mにつき1℃下がりますから、たとえば気温が零下10度で風が10メートル程度という、冬の高山では温かい日でも体感温度は零下20度となりますので、寒さ対策はしっかり行わなければなりません。かといって、歩いているときには汗をかくので、このギャップを上手にコントロールしないと低体温症になって危険です。基本的には、歩いているときにはできるだけ汗をかかないように薄着で、休憩するときには防寒着を着ることです。なお、吸湿速乾性と保温性を高めた下着を使うことは当然です。

さて、靴ですが、冬の高山では、靴底が硬く、足裏や足首が容易に曲がらず、足全体をしっかり固定し保護する靴が必要です。凍った雪と氷を蹴り込みながら歩くので硬く頑丈な靴でないと足を痛めてしまいます。また、通常、ワンタッチアイゼンが使用できる靴を使います。つまり、アイゼンの着脱が簡単で、容易に緩まない靴を使うことです。歩いている途中でアイゼンが緩んで締め直すのは、面倒なだけでなく危険でもあります。緩んだ場所がはしごなど危険な場所だと締め直すこともできません。また、汗をかいた状態で数分でも締め直す時間動かないでいると体が冷えてしまいます。

昔は、冬の高山用の登山靴といえば、皮革製の二重靴やプラスチックブーツが一般的でしたが現在では使われていません。最近では縫い目をなくして靴底と靴の周囲とを硬質ゴムで一体整形し、上部を皮革やケブロテック(ケブラー)などの新素材にしたシングル靴が主流になっています。最近の冬山用登山靴は外側は防水効果が高く、内側は保温性・吸湿速乾性が高いなど機能的で、軽く、しかも手入れが簡単と非常に優れています。なんでもそうですが、道具が良くなると使ってみたくなるし、機能的で軽いので中高年や老人でも冬の高山歩きを楽しめるのでうれしい限りです。

次に、水と食料についてです。冬の高山では水も食料もザックの中で凍ってしまうので注意が必要です。ペットボトルに入れた水は凍ると捨てるしかありません。水は雪をコンロで溶かして使いますが、歩く途中で水が飲みたくなるので、やはり水筒が必要です。私は学生時代から冬はGI水筒を使っています。これはアメリカ軍が使っていたものを真似して作ったものです。アルミ製で布袋に入っているので、布袋と水筒の間に使い捨てカイロを入れておくと凍らないのです。また、口が曲がっているので横にして口を上に向けると、栓をとっても中の水はこぼれません。よって、布袋から取り出してコンロにかけて暖めることができます。つまり、やかん代わりになるのです。また、湯たんぽにもなります。なお、雪を食べると体力を消耗するので止めたほうがいいです。

また、食材は一食ごとに小分けにしておけば凍ってしまってもそのままコッヘルで調理すればいいわけです。疲れているときに食事の用意をするのは面倒ですが、自宅で予め調理しておくと現地での調理時間が短くなります。たとえば、鍋焼きうどんなどは自宅で調理して、現地では温めるだけにします。市販のレトルト食品はお湯を沸かして暖めるより中身を取り出して直接暖めたほうが早く食べられます。レトルト食品で水分が多いものは夏はいいのですが、冬の高山では持っていかないようにします。重たいですし、水(雪)は山のどこでも調達できますから。冷凍食品は途中で解けても大丈夫なように、密閉できる袋に入れて持って行きます。乾燥食品は軽いし好きなものがあれば持って行くといいです。冬は生ものも使えますが、自宅で塩・コショウをしておくなり、味噌を塗っておくとより傷まなくなります。

コンロは灯油又はホワイトガソリンを使用するものを使います。ガスコンロはたとえ寒冷地用であっても冬の高山では気圧が低く低温のため火力が弱く1リットルの水を作るのに1時間近くかかってしまいます。ガソリンは危険なので灯油を主に使いますが、ザックの中でこぼすと何もかも灯油臭くなってしまうのでサイドバックに入れるようにします。

冬の高山歩きの装備は小屋泊まりで15キロ程度、テント泊まりだと20キロ以上になるので、自分の体力と技術・経験とを踏まえて装備を決めるとよいと思います。技術・経験があれば装備を減らすことができますが、技術・経験があまりなければ余分のものを持って行くことになってしまいます。何が必要で何が必要でないかを見極めるのはそれこそ技術・経験によります。

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