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第30回 ついに、靴をあつらえた

ずっと以前から、いつかは自分の足にぴったり合った靴をあつらえたいと思っていた。しかし、値段がかなり高いことと、店に並んでいるかっこいい既製の登山靴を見るとすぐにでも履いてみたくなるので、今までずっと既製の登山靴を購入して使っていた。しかし、その結果はどうだったであろうか。何年も我慢しながら履いた挙句、結局、捨ててしまった靴が何足あることか。今までかなりの無駄をしたのである。しかも、山へ行くたびに足の爪を痛めたり、かかとやくるぶしや子指の付け根が当たって痛い思いをしながら歩いたのである。山歩き50年。今までよく我慢しながら歩いたものである。

最近のハイキングシューズは良くできていて、多少、靴が足に合わなくても足が痛むようなことはあまりない。したがって、ハイキングシューズを履くときは問題ないのである。しかし、森林限界を超えた高山では、岩だらけの道を歩かなければならないので、ハイキングシューズでは岩が靴に当たると痛いし、岩がごろごろある道では捻挫しやすいのである。その点、登山靴(アルパインブーツ)は岩を蹴飛ばしながらガンガン歩くことができるし、足首がしっかりと固定されているから絶対に捻挫することはない。今まで登山靴を履いたことがない人には良くわからないかもしれないが、一旦、登山靴に履きなれてしまうとやはり登山靴の方が安全・安心なのである。しかし、登山靴の場合はやはり靴が足に合っていないと痛い思いをする。

5万5百円もした。しかも、注文してから40日間も待たされた。ようやく出来上がった靴に、保革油を充分にすり込んでから防水スプレーをして、自宅近くの裏山で試しに1時間ほど歩いてみた。まだしっくりとはこないが手ごたえを感じた。これならいけると感じた。二度目に履いたときは紐を目いっぱい締めてみた。足がしびれるほど締めて歩いてみたが、当たるところはどこもない。三度目に履いてみたときには登りと下りとで締め方を変えてみた。もちろん、登りはゆるめに下りはきつめにである。完璧だった。足になじんできたのでホームグランドの丹沢表尾根を歩いた。1500m程度の低い山だけれど、ところどころに岩場がある。やはり、岩場になると本領を発揮する。次は、北アルプスか南アルプスに行くつもりだ。これで死ぬまでルンルン気分で山歩きを楽しむことができる。そう考えると5万5百円は安いものだ。

靴の職人さんに聞くと、最近は、登山靴を注文する人はめったにいないという。登山靴は今でもヨーロッパの国々の製品が多いが、最近は日本人の足型に合わせた靴が作られているためだという。昔は足に合わない靴が多かったため注文する人が多かったという。そして、そのほとんどが大学生だったという。現在はそもそも、山歩きをする大学生がいなくなって大学の山岳部も少なくなってしまった。現在、東京の大学で山岳部があるのは早稲田と明治だけだという。いずれも伝統的な山岳部のある大学である。この職人さんは、かつて明治の山岳部員だった冒険家の植村直己さんの靴も作ったという。植村さんの足は、両足を凍傷でやられていて足の指が1本もないという。だから、作るのが難しかったという。いろいろな人の足型を見せてもらった。象の足のように、横幅と縦の長さとがほとんど同じなんていうのもあった。右と左とが大人と子供の足かと思うほど大きさが違うのもあった。いろいろな人がいる、いや、いろいろな足があるものである。

登山靴の良し悪しの見分け方を教えてもらった。登山靴はとにかくがっちりと作らなくてはいけない。それは岩と氷の山を重い荷物を背負って歩くのに適していなければならないからである。そのために、材料である革が重要であるという。革の厚さが最近は3mm程度のものしか入荷せず、これではとても良い登山靴は作れないという。最近は牛を早く育てて早く肉にしてしまうためであるという。充分に成長しないで肉にしてしまうので、革が薄いのだという。登山靴を作るには5mm程度の厚さの革が必要であるという。それで、昔仕入れた革を使っているということである。したがって、革の厚さを見れば靴の良し悪しがわかるという。最近は薄い皮を張り合わせたり、靴底にプラスチックの板を仕込んだりしているそうである。しかし、これでは、型崩れしやすくなったり、通気性が悪くなったりすると言う。この職人さんは昔仕入れた革がなくなったら登山靴作りは止めると言っていた。

登山靴に限らず、靴は足にぴったりと合っていた方がよい。そこで、足型を取ってもらって足型に合わせて作ってもらうのであるが、ここに問題がある。それは、好みが人によって違うからである。大き目がいいという人、小さ目がいいという人、足幅がゆったりがいいという人、きつめがいいという人、いろいろだという。さらに、土踏まず(アーチ)がしっかりと盛り上がっているのがいいという人、その逆の人、とにかくいろいろなのだという。中には、縦の長さが25cmぐらいなのにもかかわらず、28cmぐらいがちょうど良いという人もいるという。それで、結局、足型を取るのは標準の足型とどこがどの程度違うのかを知るためであるという。つまり、当たる部分をはっきりさせて、当たらないようにするためであるという。したがって、最初にいろいろな靴を履いてみてどの靴が一番好みに近いかをはっきりとさせてから、足型と比べながら作るのだという。

また、当然ながらどのような山へ行くのかが重要で、低山歩きが中心か、夏の高山歩きか、冬の高山歩きもするのかなどを聞かれた。そこで、冬の高山用の靴は別にあるので夏の高山歩き用のものが欲しいと言った。つまり、もっともオーソドックスな登山靴である。この場合には、いわゆるシングルの登山靴であり、保温力を高めた冬山用のダブルやセミダブルではない。また、足首をどこまで覆うか、つまりどこまで編み上げるかである。冬山用ならば雪の中を歩くわけだから、上の方まで編み上げてあった方が良いわけである。しかし、そうすると逆に足首が固定されるため、歩きにくくなる。その兼ね合いである。それと、ベロをどうするかが重要である。ベロは合わせベロや袋ベロなどがあるが、私は甲が低いのと冬の低山歩きにも使いたいので袋ベロにしてもらった。合わせベロは甲高の人に向いており、袋ベロは甲が低い人に向いている。なぜなら、いずれも紐がしっかりと結べるからである。また、合わせベロは合わせ目から水が入りやすいという欠点があるが、袋べろはそれがない。

最後に、中敷きについてであるが、これには微調整が必要であることがわかった。単に、土踏まずの部分を高くするか低くするかだけでなく、足裏の形状(凹凸)が人によって異なるので、これも型を取って型に合わせるわけである。しかし、これにも好みがある。よって、靴が出来上がってから、何度も店で履いてみて少しづつ微調整してもらうのである。具体的には、グラインダーで削るのである。したがって、最初は厚めに作ってあるので、少しづつ削っていくことになる。このときに、気をつけなければならないのが当然、削りすぎである。もちろん、自分で削るわけではないのだが、何度も削っては履き、削っては履きを繰り返すことになる。中敷きだけで4000円であったが、まさに中敷きによって自分の足にぴったりと合っているかどうかが良くわかるのである。つまりは快適な山歩きができるかどうかは中敷きの作り方にかかっているのである。もっとも、中敷きはいつでも作り直すことができる。

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