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第29回 二度あることは三度ある

ご存知のように、鎖やロープが張られている場所は危険である。ところが、鎖やロープに頼り過ぎるとかえって危険なのだ。鎖やロープは、足が滑ったら谷に落ちるなどの危険な場所に張られているわけだから、まず、足が滑らないように気をつけなければいけない。それなのに、それをおろそかにして手でロープや鎖を掴むことに注意がいってしまうのである。鎖やロープは足が滑ったときに体を手で確保するためだけでなく、足が滑らないようするためにもあるのである。よって、鎖やロープを使うとかえって滑りやすくなる場合には、使わない方が安全なのである。このことがわかっていない人が多い。

それ以前に、ほとんどの人は鎖やロープの使い方を知らない。使い方を知らないのだから鎖やロープが張られている場所は恐いと思い、また、そういう場所を嫌う。鎖やロープを掴んでいる時には体を斜面からできるだけ離して斜面と体との角度をできるだけ直角になるようにし、滑らないようにしなければならないのに、そういう人の動きを見ていると、斜面と体とを平行にしてしまうのである。こうなると、滑りやすくなるだけでなく、滑ったときに手でぶら下がるようになる。つまり、手だけで体を支えるようになってしまう。滑ったときに自分の体重と荷物の重さとを瞬時に手で支えることは通常はできないから、確実に落ちてしまう。

それだけではない。鎖やロープの信じられないような使い方をしている人がいる。うそだろう、と言いたくなるが、本人はいたって自然に振舞っている。その使い方というのは、体(顔)を谷側に向けてしゃがみ、片手で鎖やロープを掴み、もう一方の手で岩や木の枝を掴んで、斜面に腰を下ろし、いざるようにして下るのである。これでは鎖やロープを両手で掴むことができないし、足を踏ん張れないので、ちょっとスリップしただけで確実に落ちてしまう。第一、谷を見ながら下るわけだからそれだけでも怖いはずだ。怖いにもかかわらず、このように鎖やロープを片手で掴む人は女性に多い。片手で自分の体重を支えられると思っているのだろうか。急な斜面を下るときには、必ず、登るときと同じように体(顔)を山側に向けて、ロープや鎖を両手で掴んで、斜面から体をできるだけ離して、股を少し広げ、股の間から下を見て足を置く場所を探しながら下るのである。

鎖やロープが張られていても、その張られている場所が悪いために、かえって鎖やロープを使うと体が不安定になることもある。鎖やロープは通常、斜面上に垂れ下がるように固定されて張られている。しかし、斜面をトラバース(横断)することもあるし、鎖やロープを固定する場所がなかったりするので、ちょうどよい場所に鎖やロープが張られているとは限らない。そのため、鎖やロープを使うと足の位置と手の位置とが離れて不安定な体制になってしまうことがある。鎖やロープの使い方を知らない人は、こういう場所でも鎖やロープに頼ってしまうのでかえって危険なのである。そもそも、鎖やロープを使わないでも危険な場所を歩けるように訓練しておくのがベターである。たとえハイキングでも岩登りの基本をマスターしておけば安心である。

さて、それほど急ではない下りで、鎖もロープも張られておらず、体を谷側に向けて歩いているときに、つまずいてしまうことがある。こういう場合には前のめりに谷にダイビングするように落ちるので大怪我をする場合がある。時には岩に頭をぶつけて死ぬこともある。よって、十分に気をつけなければいけない。それなのに、あぁそれなのに、私は二度も同じ場所で同じようにつまずき谷に落ちてしまったのである。

丹沢の桧洞丸から犬越路への道はかなり急な下りでロープがところどころ張られている。ロープが張られているところは体を山側に向けてロープを掴んで下ることができる。また、ロープが張られておらずそれほど急ではない下りでは体を谷側に向けて足を内股にして気をつけながら下ればよいのである。そこで、気をつけながら下っていたのだが、つまずいてしまい、気づいたときには体が谷に落ちていた。幸いにも藪に突っ込んだために擦り傷程度で済んだ。私としたことが、なんという不手際をしたのだ、不注意にもほどがあるとつくづく反省した。つまずくということは、不注意だった証拠である。なぜなら、足を置く場所を確認しながらゆっくりと歩けば滑ることはあってもつまずくことはないからである。たとえ滑ってころんでも急な下りではないので尻餅をつくだけである。

このことがあってから、しばらくして、また、同じ道を歩くことにした。まぁ、言ってみれば自分に対するリベンジである。50年以上山歩きをしていて、何度もつまずいたことがあるが、それらはほとんど平坦な道だったために怪我をしたことはなかった。また、下りでつまずいて体ごと谷に落ちたこともそれまではなかった。下りではいつも注意して歩くからである。それで、どうしても同じ道をつまずかずに歩きたかったのである。この道は、かつて何度か歩いたことがあり、慣れているつもりだったので、つまずいたことが悔しかったのである。ところが、また、ほぼ同じ場所でつまずいて谷に落ちてしまったのである。やはり、不注意だったのが原因である。

こうなると、私も、もう年かな、と思ってしまう。注意しているつもりでも、遠くを見ていたり、考え事をしていたりするのである。要するに注意力散漫なのである。思い起こしてみれば、小学生のころの通信簿に「注意力散漫で、授業中にときどき窓の外を見ています」と書かれたことがあった。となると、これはもう子供のときからの癖のようで、いまだに直らないということである。

その後、その証拠ともいえることが起こった。それは、自宅近くの高さ130mほどの山を歩いているときに足をくじいてしまったのである。やはり、下り坂で考え事をしながら歩いていた。このときはジョギングシューズを履いていたために、もろに足首をひねってしまい、痛くて歩けなくなった。しばらくその場で休んでから、痛みをこらえながらようやく家にたどり着き、患部を冷やしたのだが、その日の夜に足が膨れて、次の日には病院に行かざるを得なくなった。それから、3日間は松葉杖を突いて歩き、一週間ぐらいは靴を履くことができなかった。それで、遠くを見たり考え事をしたりしながら山を歩くのは止めようと思ったが、小学生のころからの癖なので止められるかどうかわからない。

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