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第23回 山歩きの装備(3)衣類について

山へ行くのにどのようなものを着ていけば良いかについて書かれている本はたくさんある。しかし、なぜそうするのか、またどうすれば低体温症を防ぐことができるかについて詳しく書かれているものはあまりない。そのためか未だに綿のジーンズや綿の下着、綿の長袖シャツ、綿のジャンパーなど綿の衣類を着て山へ行く人が後を絶たない。山は特別なところであるから綿の衣類ではダメである。なぜなら、時には命にかかわるから。夏の高尾山で低体温症で死んだ人もいるのである。

昔、私が中高生のころ、山へ行くたびに風邪を引いた。なぜ風邪を引くのかよくわからなかった。汗をかいた後、休憩していると寒くなってくるが、そんなことは山でなくても同じだ。運動をすれば誰もがそうなるし、寒ければ暖かくなろうと又運動をする。だから、風邪を引くことなどない。山でも休憩していて寒くなれば暖かくなろうとして、又歩く。ところが、山から帰ってくるとなぜかいつも風邪を引いた。その理由がわからなかった。

その理由は山の本を見てもどこにも書いてなかったので山でいろいろな人に聞いた。山小屋の人や山で出会ったベテランにも聞いた。しかし、誰もがその理由を教えてくれなかった。結局、山のベテランにもわからなかったのである。そこで、内科の医者に聞いてみた。その結果、運動時間が長く、出る汗の量が非常に多いため、体温が下がりすぎるためではないかと言う。

確かに、町にいる時は運動するといってもせいぜい1~2時間である。ところが、山では一日で5~8時間歩くわけだから、汗の出る量が多い。汗が出れば体温が下がる。元々、体温を下げるために汗が出るのであるから汗の量が多ければそれだけ体温が下がるわけである。しかし、私には納得できない。汗は体温が必要以上に高くなった時に体温を下げるために出るからである。体温が平常であれば汗が出るわけがないから、体温を必要以上に下げることはないはずである。

そこで、私は図書館へ行って汗について調べてみた。すると、汗が出やすい人とそうでない人がいることがわかった。汗が出やすい人は、少し体温が上昇してもすぐに汗が出る。そして、そのためにそれほど体温が上昇していなくても、汗が余分に出てしまい、体温を余分に下げてしまうことがあるということがわかった。また、汗が出やすい人は普段運動をして汗が出やすくなっているということもわかった。

もう一つわかったことは、汗をかいて下着が濡れると下着はすぐには乾かないために、体温をよりいっそう下げてしまうということである。下山して家に帰り着くまでは濡れた下着を着ているので、どうしても体温が下がりすぎてしまうのである。これが身体を冷やす主な原因である。つまり、下山してから家に帰りつく間に風邪を引いてしまうのである。そこで、下山したらすぐに着替えることにした。そうすると風邪を引かなくなった。この時から私は日帰りでも着替えは必ず持っていくことにしている。もちろん、非常時のためにも着替えは必要である。非常時にはすぐに下山できないわけであるから、汗で体が冷え切ってしまう。よって、着替えほどありがたいものはない。

私が中高生のころは山へ行く時は誰もが綿の下着を着ていた。そして、冬の高山へ行く時だけ毛の下着を着た。昔は透湿性や速乾性のある化学繊維の下着などなかったし、毛の下着は高価なのでほとんどの人は持っていなかった。そこで、いろいろな工夫をした。一つは最近言われるようになったレイヤー技術である。歩く時は出来るだけ薄着にして汗をかかないようにし、体温に応じて着たり脱いだりする方法である。これをこまめに行う。つまり、体温が上がったら汗をかいて体温を下げる、という体が本来持っている体温調節機能を使わないようにする技術なのである。このためには体温調節しやすい前開きの衣類を使う。頭からかぶるセーターは体温調節しにくい。

二つ目の方法は汗をかいて下着が濡れたら、濡れた下着を着たまま体温で乾かす方法である。これを着干しという。汗をかいたらゆっくりと歩き、着干しして、乾いたらまた通常の速さで歩くという方法である。重量を減らすため着替えを何着も持っていけない数日かかる縦走の時にこの方法を使った。しかし、下手をすると風邪を引くので、ベテランの方法であった。あるいは、着干しの変形として下着を二枚重ねにして、内側が濡れたら外側と取り替えて濡れた下着を着干しする。これを繰り返す方法である。これはベテランでなくてもできたが、取り換えるたびに裸にならなければならないので季節が限られていた。

三つ目の方法は、下着の下に新聞紙やタオルなどを肌に巻きつけておいて、汗で濡れたら引き抜く方法である。この方法は非常に効果が有り、多くの人が利用していた。現在でも利用している人は多い。特に、最も汗をかく背中にタオルを入れておく人は多い。最近では綿の下着を着て山へ行く人はあまりいないのでこの方法を使う人は少なくなったが、それでも汗かきの人や簡単に着替えができない女性は未だにこの方法を愛用している。長めのタオルの真ん中を丸く切り抜いて、ここから首が出せるようにして下着の下に着ける。汗をかいた時にこれを引き抜けば良い。

四つ目の方法として、これは究極ともいえる方法であるが、大人用の紙おむつを広げて背中に当てている人もいる。マジックテープで簡単に止められるので便利だそうだ。これは、どんなに大汗をかいてもすぐに吸い取ってくれるし、肌触りがとても良く、非常に快適だということであるが、私は試したことがない。

さて、下着は当然、透湿・速乾性があり、しかも保温性がある化学繊維がよい。春秋冬は長袖にして夏には半袖のTシャツが良い。Tシャツは暑い時にはそのまま外衣として着られるし、寒い時には下着にもなるので、体温に応じて頻繁に着脱するレイヤー技術を使う場合にも便利である。

次に、Tシャツの上に着る長袖のシャツも化学繊維、又は毛でなくてはならない。さらにその上に着る防寒着は保温効果が高くしかも軽い、毛のセーターかフリースなどが良い。さらにその上は防寒と防風と雨具とを兼ね備えた透湿性のあるゴアテックスのジャケットを着る。ちなみに、外衣として昔は良くウインドヤッケを着たが、これは当初は綿でできており、文字どおり防風・防寒着であった。つまり、雨具ではないから雨が降れば雨具を別に着なければならなかった。その後、ナイロン製のウインドヤッケが出来て暴風・防寒だけでなく雨具としても使われるようになったが、ナイロンは透湿性がなく蒸れるので、ゴアテックスが開発された時から使われなくなった。

最後にズボンについてであるが、これも透湿・速乾性と保温性がある化学繊維や毛が良い。最近の登山用のズボンはほとんどが化学繊維でできており、透湿・速乾性がある上、ポリウレタンなど伸縮する繊維が織り込んであるので歩きやすくなっている。しかし、毛ではないので保温性はあまりない。私は春・秋・冬は今でも毛のニッカーボッカーを愛用している。ニッカ―は膝を曲げた時に膝が引っ張られることがなく、また裾がないので足さばきが良く非常に歩きやすい。ズボンだと裾が岩の角や木の根っこに引っかかって転倒する場合があるが、それが全くない。しかも毛でできているので温かい。しかし、夏には涼しい化学繊維でできたニッカ―の形状のズボンを使っている。したがって、靴下はいつも長い靴下を履いている。

さて、最初に書いたように、ハイキングに綿の衣類を着て行く人が後を立たないが、綿の下着やジーンズを着て山へ行くということは、山へ風邪を引くか死にに行くようなものである。ジーンズのズボンは汗をかくと足にまとわりついて足が動きにくくなるので非常に疲れる。また、濡れると生地が厚い分簡単には乾かない。内側から汗で濡れた上、外側から雨で濡れたりすると足が上がらなくなり歩けなくなる。ちなみに、登山用の衣類は高価なので、昔の人は古くなった純毛の背広を着て山へ行ったものである。襟(えり)を立てて襟章をつける穴にボタンが入るようにボタンを取り付けて着ていた。ズボンだけ利用してもよいし、ズボンの裾を切ってニッカーに作り変えればもっと良い。今でも純毛の古い背広を利用しているベテランがいる。

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