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第21回 山歩きの装備(1)靴について

山歩き50年以上の経験を基に、これから数回にわたって、山歩きの装備について書いてみようと思う。あくまで私の個人的な知識と経験と独断に基づくものであるから、信じようと信じまいとあなたの勝手である。

山歩きで最も重要な装備が靴である。それで最初に靴を取り上げることにした。靴はどのようなスポーツでも重要なものであるが、山歩きでは特に重要だと思う。靴の良し悪しによって山歩きが快適になったり、苦痛になったりする。また、怪我をしたり、滑落して死んだりすることもある。そもそも、山歩きはウォーキングではないので、ジョギングシューズやウォーキングシューズを使ってはいけない。ウォーキングと山歩きとでどう違うのかというと、ウォーキングは整備された平らな道を歩くことであり、山歩きは木の根や岩などがある整備されていない凸凹の坂道を登ったり下ったりすることである。つまり、道が整備されているかいないか、道が平らであるか坂であるかの違いである。ちなみに、階段は一段一段が平らであるから坂道ではない。階段は階段である。

では、なぜジョギングシューズやウォーキングシューズを山で使ってはいけないのか。ジョギングシューズやウォーキングシューズの特徴は、第一に靴底が柔らかくできていること、第二にいわゆる短靴で編み上げになっていないことである。それに対し、山歩き用の靴は靴底が硬く、また、編み上げになっていることである。靴底が柔らかい方が衝撃が少なくてよさそうであるがそうではない。木の根や岩などを踏んだ場合、靴底が柔らかいと足裏が曲げられるために疲れるのである。また、短靴だと足首も曲げられるので捻挫を起こしやすいのである。これらを防ぐため靴底が硬く、また足首を固定するため編み上げになっているのである。

さて、山歩き用の靴にもいくつか種類がある。基本的には、軽登山靴(ハイキングシューズ、トレッキングシューズ)、オールラウンド登山靴(アルパインブーツ)、冬山用登山靴の3種類である。最近では軽登山靴とオールラウンド登山靴との中間的な靴がいろいろとあって、バリエーションに富んでいる。このほかに、沢登り用や岩登り用などの専用登山靴がある。私は沢登りや岩登りはほとんどしないので、基本的な3種類の靴を使い分けている。では、それぞれの特徴と使う場面について簡単に説明しておこう。

軽登山靴は文字通り登山靴の中でも軽く出来ていて主に低山で使う。ちなみに、低山とは森林限界より低い山のことである。つまり、低山は森林の山で主に土で出来ており、道が比較的柔らかい山である。なぜなら、木の葉が枯れて土になるからである。中部山岳地域(日本アルプス)では約2500メートルが森林限界となる。

一方、高山は森林限界を超える山で森林がないので土がなく、道が硬い岩でできている山である。したがって、軽登山靴と登山靴とは単にその重さの差ではなく、そのつくりが異なるのである。その違いは主に土の上を歩くか岩の上を歩くかによるのである。土は柔らかく、岩は硬い。よって、登山靴は軽登山靴よりもいっそう足を保護するために、靴底だけでなく靴全体が硬く、しっかりと足首を固定するように出来ている。特に、靴底にはプラスチックの板が入っているものもあって足裏が曲げられないようにできている。また、編み上げ部分が長くなっていて足首を硬く固定するように出来ている。足首を固定すればするほど歩きにくくなるが逆に捻挫しにくくなる。それで、紐の締め具合で調節する。平らな所を歩く時には紐を緩め、登る時には少し紐を締め、下る時には紐をしっかりと締めるのが基本である。

基本が理解できたところで、もう少し詳しく説明しよう。まず、軽登山靴であるが、現在はハイキングシューズとかトレッキングシューズなどと呼ばれている。昔は、軽登山靴といえばキャラバンシューズと呼ばれていた布製の靴が主流であった。元々はヒマラヤなどの登頂を目指すキャラバン隊が何ヶ月もの長いアプローチ用に使った靴だそうだ。それを改良してキャラバンシューズという商品名で販売し、ヒットさせたものである。一方、トレッキングシューズは元々はヨーロッパ・アルプスの景色を眺めるのが目的で山の裾野を歩き回る(トレッキングする)ために作られた靴だそうだ。山の裾野とはいえ岩山であるし、富士山よりも標高が高い場所でもあるから比較的丈夫に作られている。しかし、登山靴ほど丈夫ではない。岩山散歩用といったところか。

最近ではハイキングシューズで夏の高山に行く人も多い。近頃は高山でも一般ルートは道がだいぶ整備されているし、ハイカーには中高年が多く軽くて歩きやすい靴を好むからであろう。しかし、これは疲れるし危険でもある。オールラウンド登山靴の方がしっかり出来ているため足を痛めることは少ないし慣れれば歩きやすいのである。

次にオールラウンド登山靴であるが、これは通常、一年中、高山でも低山でも、岩山でも雪山でも使える、つまりオールラウンドに使える靴である。だから、山をこれから本格的にやろうとする人には最初からこの靴を買うことを勧める。ところが、多くの人はハイキングシューズを最初に買う。理由は軽くて歩きやすくて安いからである。しかし、数回山歩きをすると夏に槍や穂高などの高山に、あるいは冬の低山に行きたくなる。そして、ハイキングシューズのまま出かけて足を痛め、その結果、オールラウンド登山靴を買うことになる。ちなみに、オールラウンド登山靴は現在はアルパインブーツと呼ばれることが多いが、それは糸で縫って作った昔のクラシックブーツと区別するためである。

オールラウンド登山靴がなぜ良いかというと、まず、すでに書いたように丈夫に出来ているから足を十分保護してくれる。岩を蹴飛ばしても全く痛くないし、捻挫する心配がないから、道の状態にあまり気を使わずにガンガン歩ける。また、当然、冬でも足が冷たくない。また、靴底がより滑りにくくなっているし、多少重いので一歩一歩しっかりと歩くことができる。ちなみに、ウオーキングシューズやハイキングシューズを履いている人に見られることであるが、下り坂で調子に乗って走るように下っている人がいる。ちょっとつまづけば谷にダイブすることになり非常に危険である。オールラウンド登山靴では多少重いので走ることはできないだろう。雪と氷の山ではアイゼンをつけなければならないが、ハイキングシューズでは靴底が柔らかいため外れやすい。オールラウンド登山靴なら一旦装着したらめったに外れることはない。

しかし、オールラウンド登山靴は万能であるがゆえに冬の高山用としては不十分である。やはり、冬の高山には専用の登山靴が必要なのである。そこで冬の高山用の靴について説明する。冬の高山用の靴で昔よく使われていたのが厳寒期用の二重靴と雪山用のプラスチックブーツであるが、現在ではどちらも使われていない。つまり、冬の高山では防寒と防水がいっそう求められるのである。最近では靴の下部を硬質ゴムで覆って水の浸入を防ぐと同時に、上部を皮革、あるいはゴアテックスやケブラーなどの化学繊維にして防水と通気性を確保した靴が使われている。昔より軽くて丈夫で防寒と防水と通気性とを兼ね備えている。また、ワンタッチでアイゼンを着脱できるようになっているので、たとえ危険箇所でアイゼンが外れてもすぐに装着できるので安全・安心である。

参考までに、昔使われていた冬の高山用の靴についても書いておくことにする。厳寒期用の二重靴というのは、靴の中にもう一つ靴があって、二重になっている靴である。昔は三重靴もあった。特徴はもちろん暖かいことである。昔の登山靴はすべて皮革でできていたので水に弱く、いくら防水処理しスパッツをつけても雪山を一日中歩き回ると、だんだんと水が滲み込んできて足が冷たくなる。そこで、二重にして予防したのである。昔は冬山でテントで寝る時は靴を抱いて寝るのが常識であった。体温で暖めておかないと、翌日は靴が凍って履けなくなるからである。

二重靴の内側の靴はテントシューズとしても使うことができるが、二重靴は一重靴よりも当然重い。また、下山した後でカビが生えやすいので、防水処理や皮の手入れが大変であった。その点、一重靴はジャブジャブと洗っても風通しの良いところに置いておけばカビが生えることはない。そこで、皮革の長所を生かしこれらの欠点をなくすために一重と二重の中間の改良した靴もある。実は私はこれを今でも愛用している。これは靴の下部を硬質ゴムで覆い、上部は皮革で出来ていて、ベロだけが二重になっている靴である。これなら、水が滲み込んでこないし、二重靴よりも軽いし手入れも簡単である。しかし、履くときには2回紐を結ぶことになる。

次にプラスチックブーツであるが、これは二重靴の外側の靴をプラスチックにしたものであり非常に暖かい。よって、厳寒期にはよい。そのため、昔は冬の高山といえばプラスチックブーツが全盛であった。海外の高山に登る人はすべてプラスチックブーツを使った。しかし、残念ながら、プラスチックという性質上、寒い時には硬くなって、まるで、スキー靴を履いているようで、非常に歩きにくい。そこで、私は春山用に使っていた。春山で雪がシャーペット状になっていて、まるで川の中を歩くような時には、革靴ではだめである。革靴では水が中まで滲み込んできて靴下までびっしょりと濡れてしまう。これでは、マメが出来やすくなるし、凍傷になってしまう。

プラスチックブーツなら絶対に水は滲みこんで来ないので暖かいし、非常に軽い。そのうえ手入れが全く要らない。内側の靴を取り出して別々に保管しておけばカビも生えない。しかし、プラスチックブーツの最大の欠点は足入れが悪いことであった。なにしろ足には絶対になじまない。したがって、自分の足に合う靴を見つけられるかどうかが問題であった。店で履いてみてこれぞ俺の足にぴったりだと思って購入し、半日歩いても全く痛くならなかったのに、夕方から痛み出して、二日目はもっと痛くなって、三日目には歩けなくなってしまうというのはよくあることであった。

それで、かつては当たる部分を熱して膨らましたりしたが、膨らました部分が山で冷やされると簡単に割れてしまって、事故を起こすことがあった。それで、その後はそういう修理はしないで、多少柔軟性のあるプラスチックが使われるようになった。しかし、現在ではプラスチックブーツは全く使われていないし販売もされていない。その理由は、プラスチックは劣化が早く、ある日突然破壊するからである。破壊するという言い方が適していると思う。履くときには問題なかったのに、歩いている途中で突然プラスチックが割れてバラバラの破片になってしまうのである。

次回は靴の選び方と履き方について書くことにする。

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