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第16回 山の事故は自己責任

山で事故が起きるたびにリーダーの役割と責任が問題になる。その原因は、そもそもリーダーの役割と責任が不明確なためである。

文部科学省は登山指導者(リーダー)のための研修を行っている。旧文部省による登山指導者研修テキスト『高みへのステップ』では、リーダーの資質についていろいろと述べたうえで、「リーダーの役割は、単にチームの目的や課題を達成させることだけでなく、自然の中で生命の尊厳や人間愛、連帯感などを育てることにある」と結論づけている。さらに、「このような役割を果たせないリーダーのもとで事故が発生した時に、次に述べる法的責任の問題が生ずることになる」と述べている。

つまり、登山指導者(リーダー)を指導する旧文部省の研修テキストには、事故を回避するためにとるべきリーダーの役割については何も書いていないのである。そのうえ、事故が起きた時には法的責任の問題だと逃げているのである。本来であれば、リーダーは事故を回避するためにこうすべきである、それをしないで事故が起きた場合にはこのような責任が生じることになる、とテキストに明記すべきであり、それを指導すべきなのである。リーダーを指導する旧文部省が無責任だったのである。これではリーダーが無責任になるのは当然である。

なぜこのように、リーダーの役割と責任が不明確なのであろうか。それは第一に、日本的経営といわれる「集団主義」に由来すると思われる。会社でもお役所でも、我が国ではリーダーの役割と責任は不明確なのである。第二に、山で起きる事故は予測し難く、優れたリーダーでも判断を誤る場合があるからである。結局、「みんなで登れば怖くない。遭難しても誰の責任でもない」となってしまうのである。

最近は、中高年のレジャー的山行が増えており、バス旅行と同じように不特定多数の人を集めてハイキングに行くことが流行している。またこのためか、リーダー不要論などもあるそうだが、どんな山行においてもリーダーは必要である。また、リーダーの役割と責任は明確にしておかなければならない。なぜなら中高年の事故が増えているのだから。

本来、リーダーの役割は、事故を回避するための注意義務と、はからずも事故が起きてしまった場合、その被害を最小限に食い止めるための努力義務を果たすことである。このためには、メンバーの掌握と統率および状況に応じた適切な判断と指示が必要である。もし、これらの義務を果たさず事故が起き、またその被害が大きくなれば、責任を果たさなければならない。

当然、その責任は被害を受けたメンバーに対してである。実際に事故が起きた場合、メンバーとの間で示談になるのが通例であるが、裁判になる場合もある。よってリーダーは、注意義務事項と努力義務事項とを整理しチェックリストにしておく必要がある。これらの義務を果たせない人は、当然、リーダーになるべきではない。また、リーダーは、自分の技術と経験を考慮してリーダーとしての責任が果たせるような山行計画を立てなければならない。

誰もが自由に参加できるハイキングクラブや旅行会社などが主催する集団山行では、どこの馬の骨かわからないような人間が多数参加するのだから、リーダーがメンバーを掌握することなどできない。よって、リーダーがその義務と責任を果たすことはできない。せいぜい道案内と初心者メンバーの世話で精いっぱいであろう。このような山行で事故が起きてもリーダーには責任はない。したがって、このような山行では計画書にリーダーには責任がないことを明記すべきである。

中高年の遭難事故の主な原因は、転落、滑落、道迷い、疲労、病気などだそうで、これらの真の原因は本人の技術不足、運動不足、準備不足などと不注意である。したがって、本来、リーダーは事前にこれらの状況をチェックし、何か問題に気づいたらそのメンバーを参加させないか、計画を変更するかしなければならない。また、本人に十分注意しておかなければならない。これがリーダーの注意義務である。集団山行のように、リーダーが事前にこれらに気づかずに対処できない状況にあった場合には、事故が起きてもリーダーの責任ではない。それはメンバーの自己責任となる。自業自得というわけだ。

事故が起きないようにするためには、まず、自分の技術に見合った山へ行くことである。また、体調が悪いとか運動不足の場合には体調を調え、体力をつけてから山へ行くべきである。さらに、地図などの必要装備を必ず持って行くことである。いずれも常識的なことであるが、守らない人が後を絶たない。なぜであろうか。それは、リーダーを頼り、いざとなればリーダーが何とかしてくれると思っているからである。ところで、『地図が読めない女』という本がある。地図が読めない女は決して山に地図を持っていかない。このような女は、もしリーダーが滑落して動けなくなったらどうするつもりなのであろうか。仲良く遭難する? 

もう一つのリーダーの役割として、事故が起きてしまった時に、その被害を最小限にする努力が必要である。たとえば、非常装備をメンバー各自に持って来るように指導するだけでなく、事前にメンバーとともに事故を想定した訓練をしておかなくてはならない。少なくとも骨折や捻挫のように比較的多く発生する事故への対処の仕方や、ビバーク(不時露営)の訓練ぐらいは必要である。こういう努力義務を果たさなければリーダーとしての資格はない。

リーダーと称する人の中には、登山口で準備運動もしないでいきなり登り始める人もいる。メンバーがそのことを注意しても「歩いているうちに体がほぐれるから大丈夫だ」などと言う。こんなリーダーでもメンバーは従うしかないであろう。自分だけ準備運動して、他の人たちに遅れて登るわけにはいかないから。

『楽しい登山』文部省
事故が起きないようにする方法が書いてある中高年のためのお勧め図書です。

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