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第1回 大量生産体制の基礎を築いたイーライ・ホイットニー

1-1 大量生産体制とは

皆さんはアメリカの西部劇を見たことがあると思います。コルト社の6連発銃やウインチェスター社のライフル銃がたくさん使われています。また、南北戦争では多くの軍用小銃や軍用拳銃が使われました。当時、アメリカで製造販売されていた銃の数は約6億丁と言われています。当時のアメリカの人口が約1億人ですから一人当たり6丁もの銃が製造販売されていたことになります。これらの銃はすべて大量生産体制で作られました。決して一丁づつ手作りで作ったわけではありません。

何が言いたいのかというと、大量生産体制の創始者はフォードではないということです。なぜなら、フォード社が大量生産体制で自動車を生産したのは1905年以降ですが、南北戦争はそれ以前の1851年から1855年であり、西部劇の時代はそれよりも前の時代です。しかも、当時、銃だけでなく、シンガー社のミシン、ブラザー社のタイプライター、ウォルサム社の時計、マコーミック社の農業機械なども大量生産体制で作られました。日本の歴史の教科書には大量生産体制の創始者はフォードだと書いてありますが、これは間違いだとわかります。教科書を信用してはいけません。

さて、多量生産と大量生産とは異なります。多量生産の反意語は少量生産ですが、大量生産の反意語は小量生産ではありません。個別生産(手作り)です。多量生産は単に量が多い生産という意味ですが、大量生産はマスプロダクションを翻訳したもので、大衆(マス)向けの生産という意味です。本来は「大衆向け生産」と訳したほうが良かったのではないかと思います。マスプロダクションという言葉は、1925年にフォード社のスポークスマンがその生産方法について原稿を書き、その原稿を基に百科事典ブリタニカに掲載する際に、ブリタニカの編集者が使ったのが最初らしいです。

個別生産(手作り)であっても職人を増やせば多量生産は可能ですが、大量生産は不可能です。なぜなら、大量生産は仕組み(システム)であり、大量生産体制(マスプロダクションシステム)と呼ばれるものだからです。フォード社では大量生産とは移動組立ライン(ベルトコンベア)方式の生産であると書いています。確かに、移動組立ライン(ベルトコンベア)方式によって部品を運搬しながら組み立てれば、運搬時間が短縮でき短時間に大量に生産できるように思えます。

しかし、肝心の加工・組立工程が個別生産(手作り)のままでは短時間で加工・組立することはできませんし、移動組立も不可能ですので大量生産はできません。また、移動組立ライン(ベルトコンベア)方式もフォード社で考えたものではないので、フォードは移動組立ライン(ベルトコンベア)方式の創始者でもありません。移動組立ライン(ベルトコンベア)方式によって自動車をはじめて作ったのはオールズ社(後にGMに買収されました)です。

フォードの業績は、消費者には低価格の製品を、労働者には高賃金・短時間労働を、企業には高利潤を実現しようという、いわゆるフォーディズムと呼ばれるものを実現したことにあります。フォードはこのフォーディズムを実現するためにすでに完成していた大量生産体制を徹底的に活用したのです。

さて、短時間で加工・組立するためにはどうすればよいか、それは、まず、手作業ではなく機械で加工することです。そうすれば短時間で加工ができます。その際に、各部品を同じ寸法・精度で加工すれば組立時間も短縮できます。さらに、加工・組立工程ごとに手分けして実行すれば分業の効果がでますので、よりいっそう短時間で加工・組立ができます。

一方、手作りの場合には通常、すべての加工・組立工程を1人の職人が行います。一つの部品を作るために材料をカットし、叩いたり、ヤスリ掛けしたりして加工したら、その部品と組み合わせる他の部品を同じように加工して組み立てる、さらにそれらと組み合わせる他の部品を加工して組み立てる、という具合に順に加工と組立を交互に行って作っていくわけです。よって、時間がかかります。当時まだ機械で精密加工ができなかったのですから、当然、手作りです。また、仮に、同じ部品をいくつか予めまとめて作っておいてから製品を組み立てる場合であっても、同じ部品なのに寸法・精度が一つ一つ異なるようでは、組立の都度、加工し直してすり合わせしなければならないので時間がかかるわけです。

同じ部品を同じ寸法・精度で加工することによって、短時間で加工・組立ができるだけでなくもう一つ重要なメリットがあります。それは、部品を交換することができることです。これは部品互換制による大量生産と呼ばれており、後にアメリカン・システムと呼ばれるようになったもので、大量生産体制の基礎となったものです。この部品互換制による大量生産をアメリカで最初に取り組んだ人がイーライ・ホイットニーなのです。

部品互換制のメリットについてわかりやすく説明します。同じ種類の銃が3丁あったとします。そのうち、一つは引き金が故障し、二つ目は撃鉄が故障し、三つ目は銃身が故障したとすると、これらの銃が手作りであったならば、3丁とも使えなくなりますが、もしどの銃も同じ寸法・精度で作られていたとしたら、3丁のうちどれか一丁の銃をドライバー1本で分解して、その部品を使って他の2丁の銃をその場で直すことができます。部品互換制による大量生産は短時間に大量の製品を作ることができるだけでなく、迅速な修理ができることが大きなメリットなのです。この特徴は特に戦場においてその真価が発揮できるのです。

実は、部品互換制は、アメリカ以前に、フランスでも考えられました。しかし、フランスで考えられた部品互換制は機械加工によるものではなく、従来の手作りによって部品の互換制を高めようとしたものです。フランスでは部品の交換による銃の迅速な修理が目的であり、大量生産が目的ではなかったのです。また、フランスだけでなくヨーロッパでは機械に対する熟練工の抵抗もあって(機械打ちこわし運動として知られている)、大量生産体制は実現しなかったのです。

当時、アメリカではイギリスと戦争状態にあったのですが、なにぶん銃が圧倒的に少なく、軍用小銃(マスケット銃)の大量生産が急務であったため、イーライ・ホイットニーだけでなく、サミュエル・コルト(6連発拳銃の創始者)などが部品互換制による大量生産に取り組みました。また、日常生活に必要な製品についても、いろいろな人が部品互換制による大量生産に取り組みました。これらの先駆けとして、部品互換制による大量生産をアメリカで最初に取り組んだ人がイーライ・ホイットニーなのです。このため、イーライ・ホイットニーは部品の寸法精度を正確に測定するノギスの発明や平面削りの精度を高めるフライス盤の改良なども行いました。

問1 企業家とはどのような資質・能力及び性格を備えている人物だと思いますか。

問2 あなたが企業家になろうとした場合、日ごろからどのようなことを実行しますか。

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