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第94回 2012年版中小企業白書は役に立たない(3)
(2012年9月1日)

第3部は、中小企業の技術・経営を支える取組、第1章は、中小企業のものづくり人材の育成、となっている。第1節は、中小製造業の現状、として、企業数が2000年から2009年まで減少傾向にあり、特に2009年は大幅に減少しており、従業員が少ない企業ほど、また、資本金が小さい企業ほど減少していることが書かれている。さらに、企業数が年々減少している中でも開業数は一定数存在しており、製造業内で新陳代謝が進んでいることが書かれている。

中小製造業がどのような技術を得意としているかを見ると、「多品種・ロット変動等への適応力」「納期短縮を実現する技術」「難度の高い加工を実現する技術」などとなっている。技術競争力の位置づけを5年前と比較してみると、8割強の企業で技術競争力が高まっている、あるいは、従来の水準を維持しているとしている。その一方で、2割弱の企業が技術競争力が低下しているとしている。低下している企業にその理由を尋ねてみると、「技術・技能承継がうまくいっていない」とする企業の割合が特に多いと書かれている。

そこで、第2節 技術・技能承継の取組として、技術・技能承継がうまくいっている中小企業では、「熟練技術・技能の標準化・マニュアル化」や「OJTやOFF-JTによる人材育成」などを行っているが、うまくいっていない中小企業ではこれらをあまり行っていないことが書かれている。また、技術・技能人材の年齢が高いベテラン中心の中小企業では技術・技能承継がうまくいっていない。この理由は若手人材が確保できていないことが考えられる。

では、どういった取組が必要か、若手人材を採用できている要因を見ると、「景気後退に伴う雇用情勢の悪化(63.6%)」が最も多い一方で、「大学、高校とのつながりを強化(29.6%)」「ものづくりの魅力を伝える取組(22.1%)」となっている。また、大学卒業予定者の中小企業への就職希望理由を見ると、「やりたい仕事に就ける」が最も高く、「企業として独自の強みがある」「会社の雰囲気が良い」と続いている。

さて、筆者の意見を述べると、以上の白書の分析結果は常識的で想定内のことである。以上の白書の分析結果に基づき、中小企業が自助努力すべきは、まず、若手人材を採用する努力をし、次に、採用した若手人材に技術・技能承継をし、技術競争力を高めていく、ということになる。しかし、このようなことはどの中小企業でもわかっている。若手人材を採用するために、大学、高校とのつながりを強化したり、ものづくりの魅力を伝える取組を行ったりしているが、なかなか採用できない、というのが実情である。

そこで、筆者の意見であるが、大学卒業予定者の中小企業への就職希望理由が最も高い「やりたい仕事に就ける」という点に着目して、どんな仕事をやりたいのかを掘り下げて分析し、その仕事ができるように企業が努力すれば若手人材の採用ができるのである。若手人材がやりたい仕事というのは、企業にとっても必要な仕事だからである。

参考までに、今から約40年前、筆者が大学を卒業する際に、就職先を探すに当たっての条件は、第1に中小企業であること、第2に商品開発をやらせてもらえること、であった。その理由は、やりたい仕事をやらせてもらえるから、商品開発をやりたいから、であった。そして、私の希望はかなった。もし、大企業に就職していたら、入社して最初から商品開発をやらせてもらえなかったと思う。

要するに、将来に向けて成長発展するための取組を本気で行っている企業であれば、中小企業であっても若手人材が集まるのである。下請けに甘んじているような企業にやる気のある若者が就職を希望するわけがない。また、すでに成長発展した大企業では共に成長発展する喜びを感じることはできない。現状維持か、競争に負けないようにするだけである。そのような大企業に就職しても面白いわけがない。なお、労働条件の良い大企業や安定した生活を送れるお役所の方が良いなどというやる気のない若手はどこにも就職できない。

さて、第3部第2章は、中小企業経営を支える取組、である。第1節は、経営課題への対応、である。中小企業の経営課題として、「営業力・販売力の強化」が7割を超えて最も高く、次に、「人材の確保・育成」となっている。その一方で、今まで効果があった支援施策は、当面の資金繰りや雇用維持、人材確保に関する支援が上位にあり、販路開拓に関する支援は低位にある。また、中小企業経営者の3割強が定期的な経営相談を行っているが、相談相手は約7割が「顧問税理士・会計士」であり、約3割が「経営陣」、3割弱が「家族・親族」2割弱が「メインバンク」となっている。

白書は以上の分析結果に関してどうすべきかについては何も書いていない。そこで、筆者の意見を述べる。実はこの分析は、以前にも行っており、同じような結果がでている。要するに、相談相手が間違っているのである。中小企業は経営課題を解決する気があるのだろうか。営業力・販売力の強化をしたいのであれば、マーケティングの専門家に相談すべきであろう。また、人材の確保・育成に関しては人事の専門家に相談すべきであろう。税理士や会計士に相談しても何も解決しない。税理士や会計士は文字通り税務や会計の専門家であって、マーケティングや人事の専門家ではない。

第2節は、地域金融機関による中小企業の経営を支える取組、となってる。地域金融機関は、「事業戦略・経営戦略計画策定支援」「財務診断等計数管理アドバイス」等のコンサルティングを行ったり、「不動産売買情報の提供」「ビジネスマッチング等販路開拓支援」などを行っている。そして、金融機関、中小企業ともに、「ビジネスマッチング等販路開拓支援」を最も重視している、と書かれている。しかし、金融機関の経営支援の対応状況を見ると、地方銀行は約9割が、信用組合は約6割が対応できていると考えているのに対して、中小企業が満足している割合は3割程度となっている。金融機関と中小企業の認識には大きな差があると書かれている。

金融機関の課題として、「担当者の育成、教育が不十分」「取引先の事業内容や業界に対する理解が不十分」「担当先が多すぎて個別の経営ニーズを把握する時間がない」「頻繁な担当替え」などとなっている。一方、中小企業が考える金融機関の経営支援推進上の課題を見ると、「担当者の頻繁な交代」が4割強と最も高い。経営支援推進上の課題についても金融機関と中小企業で認識の違いがある、と書かれている。 また、中小企業が経営支援を受けたことによる効果については、中小企業の7割強がなんらかの効果があったとしているが、具体的な効果については、「財務内容の改善」「事業の継続」等となっている。

さて、白書に書かれているように、中小企業の経営課題に対して顧問税理士や会計士だけでなく金融機関も対応できていない。「ビジネスマッチング等販路開拓支援」が金融機関も中小企業も最も重視しているにもかかわらず、全く対応できていない。その理由は、「担当者の頻繁な交代」が最も高いからだという。

そこで筆者の意見であるが、本当にそうであろうか。筆者はそうは思わない。なぜなら、業務内容がわからない金融機関の担当者がビジネスマッチングをしようとしてもムリだから。金融機関の担当者は文字通り金融の仕事を専門にしている。マーケティングの仕事を専門にしているわけではない。だから担当者はお膳立てをするだけでよい。たとえば、ビジネスマッチングのために金融機関の取引先相互の交流会を開催するとか、ビジネスマッチング情報を金融機関のホームページに掲載するとかである。そうすれば、担当者が頻繁に交代しても問題がない。

なお、金融機関は人事異動が多いので、属人的な顧客企業情報は暗黙知のままにしないで形式知に変換して金融機関のものにしなければならない。担当者が変わったら顧客サービスができなくなるとは情けない話である。ITを活用して顧客企業情報を蓄積し活用できない金融機関は中小企業からもそっぽを向かれるであろう。

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