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第89回 2010年版中小企業白書は役に立たない
(2010年7月7日)

白書を読む常套手段として、まず、「結び」から読むことにします。「結び」には「ピンチを乗り越えて」という副題とともに次のように書かれています。

「リーマン・ショックから1年半が経過し、我が国の景気は持ち直しているが、我が国の中小企業の業況は依然として厳しい状況にあり、先行きへの不安感・不透明感が払拭されない。本書では、こうした中で、我が国の中小企業の置かれている状況を明らかにし、その発展の方向性を探ることを試みた。」

「第1部では、最近の中小企業の動向を概観するとともに、リーマン・ショック後の景気後退が我が国の中小企業に及ぼした影響について分析を行った。第2部では、国内制約が高まる中での新たな展開および国外への成長機会の取り込みによる中小企業の更なる発展の方策について分析を行った。以下では、本書の結びとして、各部の要点を振り返りながら、今後の中小企業の発展の方向性についてまとめることとしたい。」

第1部 最近の中小企業の動向

「アメリカのリーマン・ショックは、太平洋を挟んだ我が国の中小企業に、株価下落等の資本市場及び輸出急減等の財市場を通じて深刻な影響を及ぼした。」「足元では、我が国経済は、海外経済の改善や緊急経済対策の効果などを背景に持ち直している。しかし、中小企業の業況は、持ち直しの動きが見られるものの、その水準は依然として低く、デフレや円高の進行等、先行きにリスクがあるなど、依然として厳しい状況が続いている。こうした中で、今後とも中小企業の動向を十分に注視するとともに、中小企業対策に万全を期していく必要がある。」

第2部 中小企業の更なる発展の方策

「経済危機の影響が色濃く残る中、我が国有数の中小製造業集積では、事業所数及び従業者数が減少しており、環境・エネルギー制約や少子高齢化といった国内制約が高まる一方、国外では、アジアを中心に高い成長が見込まれる。こうした中、我が国の中小企業はどのように発展していくのか。」

<国内制約が高まる中での新たな展開>

「まず、中小製造業集積内には、我が国の製造業の根幹を支える高度な技術や工程を担う企業やこれらの強みを活かして仕事を外から獲得してくる企業が存在し、集積外にも国内外を問わず事業所や取引等のネットワークが広がっている。我が国の製造業の競争力の強化のためには、こうした個々の企業の強みを活かすことのできる中小企業の連携を確保していくことが重要である。」

「次に、我が国のエネルギー起源二酸化炭素の1割強を排出する中小企業は、二酸化炭素排出量を削減する上で重要な存在である。しかし、多くの中小企業は、照明の消灯等の運用による省エネには取り組んでいるが、設備の導入等の投資による省エネには取り組む余裕がない。中小企業はESCO事業や国内クレジット制度等を用いて一層の省エネを行うとともに、独自の技術を活かしてグリーン・イノベーションを推進し、我が国の二酸化炭素排出量の削減に取り組むことが期待される。」

「さらに、少子高齢化により生産年齢人口が減少することが見込まれる中、中小企業が人材を確保していくためには、女性及び高齢者を始め多様な人材を活用していく必要がある。仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の取れた職場環境は、従業員の意欲のみならず、生産性や定着率を向上させ得る。また、少子高齢化による高齢者数の増加に伴い、医療・介護分野における需要増加が見込まれ、必要な仕事に必要な人材が就くための環境づくりを進めていくとともに、最先端の医療技術や健康食品の開発を行うなど、ライフ・イノベーションを推進していくことが必要である。」

<国外の成長機会の取り込み>

「国外では、アジアを中心に需要が増加することが見込まれており、我が国の中小企業は世界経済の発展を自らの成長に取り込んで行くことが必要である。国際化を行った中小企業は、その労働生産性が向上し、更なる成長を実現していることがうかがえる。他方、国際化に当たっては、様々な課題があり、撤退する企業も存在することから、中小企業はこうした厳しい現実も念頭に置きつつ、積極的に国際化を行っていく必要がある。また、貿易の自由化は中小企業にとってもプラスの影響があり、自らの強みを活かして、アジアを中心に増大する需要をその成長に取り込んでいくことが重要である。」

「リーマン・ショック後の苦境の中でも、『技術の向上に努めて多能工の育成に取り組んだ。』や『教育訓練を行い従業員の意識向上に努めた。』といった危機後を見据えた前向きな声も聞かれた。我が国経済の回復は、雇用の約7割を支える中小企業の回復なくしてあり得ない。我が国の中小企業が、個々の強みを活かした連携や新事業展開、創業を行うことなどにより、様々な課題に挑戦し危機を乗り越えていく中で更なる発展を遂げていくことを期待して、本中小企業白書の結びとする。」

以上、「結び」をそのまま引用しましたが、皆さんどう思われたでしょうか。ひと言で言えば現状がわかっただけで、どうすればよいのかについては何もわからない、という内容だと筆者は思います。あえて、以上の「結び」の「今後の中小企業の発展の方向性」とやらを箇条書きにすると、
  1. 中小製造業は連携しなさい。
  2. ESCO事業や国内クレジット制度等を用いて省エネを行うとともに独自の技術を活かしてグリーン・イノベーションを推進しなさい。
  3. 人材を確保するために女性や高齢者を活用しなさい。このための環境づくりをしなさい。
  4. 最先端の医療技術や健康食品の開発をしなさい。
  5. 積極的に国際化を行いなさい。アジアを中心に増大する需要を取り込みなさい。
といったことになるでしょう。

中小製造業の連携はずっと以前から行われていたことですが、集積内の連携先が次々と廃業していく中で、集積を越えて広い範囲で連携先を探しなさいと言っているのです。実際にそうしている企業が多いので、真似しなさいと白書は言っているだけなのです。また、省エネのための投資をする際に、ESCO事業や国内クレジット制度を活用するわけですが、現状ではできることではありません。投資による省エネの余裕はないとわかっていながら、このようなことを白書は書いているのです。まして、独自の省エネ技術を活かせと言われてもそんな技術はありません。

人材を確保することは現在では簡単なことです。巷には求職者があふれているのですから。求人倍率は現在では約0.5倍なのです。何をトンチンカンなことを白書は書いているのでしょうか。また、最先端の医療技術や健康食品を簡単に開発できると思っているのでしょうか。現在そんな余裕はありません。開発には資金が必要ですし何年もかかるのですから。積極的に国際化をしなさいと言われてもそんな余裕もないのです。実際に、白書の内容を読んでみると、国内で儲かっている企業が国際化をしてさらに儲けているということが書かれています。国内で儲かっていない企業がリスクを冒して国際化をするわけがありません。

以上で、お分かりのように今年の中小企業白書は役に立たないので、本文の要約はしないことにします。

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