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第88回 2009年版中小企業白書のポイント(後編)
(2009年7月1日)

第3章 中小企業の雇用動向と人材の確保・育成

第1節 雇用動向と中小企業で働く人材の現状

雇用動向については過剰感が強まっており、賃金調整、残業規制についで、派遣、パート、アルバイト、契約社員等の再契約停止を行っている。この一方で、雇用のミスマッチも生じている。業種別に見ると製造業、卸売業においては過剰感が不足感を大きく上回っているが、小売業、サービス業においては過剰感と不足感が同程度である。また、職業別に見ると一般事務職が過剰となっている一方で、技術職や医療福祉関係の専門職が不足している。

中長期的な雇用環境を見ると、中小企業の正社員は高校卒、専門学校卒などの割合が約7割であるが、高校卒業者の充足率(就職者数÷求人数)は03年3月卒業者ごろより年々下がっており、08年3月卒業者では33.8%と求人数の3分の1しか就職できていない。したがって、少子高齢化に伴い中長期的には確実に不足していくものと考えられる。

業種間のミスマッチをみると、「医療、福祉」や「生活関連サービス業、娯楽業」、「飲食サービス業」などで不足感が強くなっている。このような人材不足の中小企業は、経験者や未経験者の中途採用、新規学卒者の採用などを考えている。「過去5年以内に仕事をやめ、現在は別の職場で働いている」という中小企業の従業員において、業種間の移動状況をみると異業種からの移動も少なからず起こっており、求職者がスキルを身につけるための教育訓練が重要である。

また、学生時代の志向を聞くと、「企業の規模にはこだわらなかった」「特に明確な志向はなかった」と回答する者の割合が高く、「大企業に就職したかった」と回答したものの割合を上回っている。こうしたことから、新規学卒予定者に対して中小企業で働く人材の現状の情報を提供していくことが重要である。

第2節 インターンシップなど教育機関との連携

大学院では中小企業との交流よりも大企業との交流が必要と考えているが、高校、高専、大学は大企業との交流よりも中小企業との交流が必要であると考えている。このことから、インターンシップについては大企業との交流より中小企業との交流の方が活発に行われている。

10年前と比較して教育機関が中小企業との交流についてどのように変化したかをみると、「中小企業へのインターンシップの実施」や「中小企業から社員を講師として招聘」といった項目で増加している。また、大企業との交流よりも中小企業との交流の方が増加している。また、この効果もあり、「学生の職業、就職への意識が高まった」という回答が顕著に多くなっている。

これに対し、中小企業が感じる教育機関との交流については、「そもそも交流に対するニーズがない」と感じている中小企業が多い。つまり、中小企業は教育機関との交流に対して消極的になっている。これは、中小企業と教育機関との交流の結果として、「学生の中小企業への就職希望が増大した」という回答が少なかったことが原因と思われる。

これについて筆者は、中小企業が学卒者を採用するために教育機関と交流したいというニーズがあるはずであるから、交流の方法や企業紹介の方法に問題があると考える。

教育機関が育成しようとする人材と中小企業が育成して欲しい人材との間にギャップが生じている。教育機関が育成しようとしている人材は「定型業務を着実に実施する人材」が最も多く、次に「新たなアイディアをひらめいたり、問題の解決方法を提案できる人材」が二番目になっているが、中小企業が育成して欲しい人材は、「アイディアをひらめいたり、問題の解決方法を提案できる人材」が最も多い。

これについて筆者は、「アイディアがひらめいたり、問題の解決方法を提案できる人材」は企業が育成すべきものであると考える。なぜなら、現在の学校は知識を習得させるのが目的なので、そういう人材を育成するのは難しいから。また、そういう人材が欲しいなら、インターンシップでそういう人材になる可能性のある学生を発見して採用すればよい。いずれも企業側の問題である。

第3節 中小企業の賃金制度

中小企業は年功序列よりも成果給の性格が相対的に強い。従業員規模が大きくなるにしたがって、年功序列を重視する傾向がある。年功序列を重視している理由として、「長期間の勤続を促し、知識、技能の蓄積を図るため」と同時に「成果主義の場合、従業員の成果を公平に評価することが困難なため」としている。年功序列を重視した影響として、企業側は「従業員の定着率が上がった」と考えているが、従業員側は「影響はなかった」と考えている。

一方、成果給を重視している理由として、「従業員の意欲を引き出すため」とする割合が高い。成果給を重視した影響として企業側は「仕事に対する意欲が上がった」が、「成果を評価するための制度設計や運用が難しい」と考えている。これに対して、従業員側は小さな企業に勤める従業員ほど成果給を重視した方がよいと考えている。

中小企業の従業員が年功序列が良いとする理由は、「長期間の優遇が長期視点に立った従業員の教育・訓練や従業員の自己啓発を促進するため」と回答した割合が高い。一方で、成果給の方が良いとする理由は「成果に応じた報酬が従業員の意欲を高めるため」と回答する割合が高い。したがって、年功序列と成果給との要素を適切に組み合わせた賃金体系となるようにする必要がある。

これについて、筆者は、仕事の内容によって区別すればよいと考える。すなわち、経営・管理能力(経営者・管理者の能力)のように、どの企業でも通用する能力を育成・活用する場合には成果給を、製品の設計・製造などその企業固有の能力を育成・活用する場合には年功序列(年功給)を採用するのが良いと考える。なぜなら、経営者・管理者は転職しやすく、中途採用もしやすいが、企業固有の能力を保有している者は転職も中途採用も難しいから。しかし、実態はこの逆になっている場合が多い。

労働生産性の高い企業は従業員一人あたりの給与も高い。また、労働生産性の伸び率が高い企業は従業員一人当たりの給与額の伸び率も高い。中小企業の賃金水準が伸び悩んでいる背景には労働生産性の上昇率が低いことが考えられる。金融・保険業、情報通信業の賃金水準が高い。高い賃金設定をしている企業の理由は、「労働生産性が高いため」の他、「高い賃金設定により、能力の高い人材を採用するため」としている。

したがって、中小企業は賃金水準を向上させるためには、労働生産性の向上に取り組んでいくことが必要である。このために、業務上のムダの排除、ITの活用等による生産性の向上、新たな製品やサービスの開発や供給等による付加価値の増大に取り組むと共に、労働生産性の向上の重要性について従業員と認識を共有し、従業員が意欲的に仕事に取り組み、付加価値を作り出す能力を高めるよう、経営者と従業員が共に努力していくことが重要である。

第4節 人材の意欲と能力の向上

仕事のやりがいの源泉を聞いた結果は「賃金水準(昇給)」を挙げる者が最も多く、次に「自分がした仕事に対する社内の評価」や、「仕事をやり遂げた時の達成感」を挙げる者が多かった。中小企業は賃金水準を上げることは難しいが、「自分がした仕事に対する社内の評価」は経営者がリーダーシップを発揮すればいくらでも工夫ができる。中小企業においては、従業員が取り組んだ仕事の成果を評価する体制を整備し、評価の実施に継続的に努力することが、従業員の仕事のやりがいを高め、仕事に取り組む意欲を引き出す上で効果的である。

従業員の満足度向上の効果として、「定着率の向上」「顧客満足度の向上」を上げる中小企業が多かった。仕事のやりがい等に対する従業員の満足度を向上させることは、従業員の定着率や生産性の向上を通じて業積にプラスの効果をもたらす。また、このために経営者と従業員とのコミュニケーションンが必要であるが、従業員規模が大きい企業ほどコミュニケーションが困難となっている。経営者と従業員とのコミュニケーションを活発に行うために、「経営計画、事業計画等を説明する場(朝礼など)を設けている」企業の割合が高い。

このほかに、「社内報、社内メール、社内イントラネット等で経営者が説明している」といった取組は、従業員規模の大きい企業ほど実施されている。小さな企業は、経営者と従業員が直接、コミュニケーションを取ることができるため、こうした手法は採られていない。。こうしたコミュニケーションに経営者が意識的・戦略的に取り組むことにより、従業員の仕事のやりがい感を高め、意欲を引き出すことが重要である。課題として「従業員が、通常業務の多忙さのために時間を割くことが困難」という回答が多かったということであるが、筆者は、経営者が意識的・戦略的に取り組み、時間を割けばよいことであると思う。

人材育成の取組については、従業員規模の小さい企業ほど、Off-JTよりOJTを実施している割合が高い。課題としては規模にかかわらず、「費用や時間の捻出ができない」ことを挙げる企業が最も多い。こうした中で、「教育、訓練等を行っても効果が実感できない」と回答した企業は、従業員規模が小さい企業ほど少ない。また、教育・訓練を実施していない中小企業に比べ、「計画的なOJT」などに「力を入れて実施している」中小企業では従業員のやりがいが高い。したがって、人材の意欲と能力を高めるため、OJTやOff‐JTなど人材育成に積極的に取り組んでいくことが重要である。

第5節 働き方とワーク・ライフ・バランス

内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」によれば、仕事と生活の調和とは、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」を目指して取り組まれているものである。製造業の労働時間についてみると、我が国は1980年代と比較すると総実労働時間は大幅に減少し、近年はアメリカやイギリスと同程度となっているが、ドイツ、フランスと比較すると長い。また、男性の正社員は働きすぎになっている一方で、女性や高齢者が希望通りに働けないといった、労働時間のミスマッチも生じている。さらに、従業員規模の小さい企業ほど年間休日総数が少ない。

とりわけ、昨年秋から景気が急速に悪化し、残業時間の削減を行ったり、休業日を増加させたりしたことで、半数以上の従業員が仕事と生活の調和が取れていると考えている。中小企業において、自社の従業員や自身が仕事と生活の調和が取れた働き方をするためにどのような取組が重要であるかというと、企業側は「従業員の意識改革」や「仕事の仕方や働き方の見直し」が重要であると考えている一方で、従業員側は、「経営・管理職の意識改革」や「経営トップによる奨励・強い支持」が特に重要であると考えており、その次に「従業員の意識改革」を挙げている。よって、筆者は、まず、経営トップや管理職等が意識改革すべきであると考える。

女性の活用については、大企業より中小企業の方がより高い割合で女性社員を活用している。就労に関する女性の意識は、子供ができても就業することに前向きに考える割合が高い。実際に、女性の正社員の再就職先として中小企業に占める割合は大きく、中小企業が女性の活用の場として期待される。実際に、出産・育児により退職した女性正社員が再度正社員として復職できる割合は中小企業の方が高い。特に、「在宅勤務、サテライトオフィスの導入」や「子供を勤務先に連れてくることの許可」といった取組は大企業よりも進んでいる。また、「子どもの送迎などのための早退・遅刻の許可」が中小企業はより進んでいる。女性が子どもを育てながら働くための取組に対して、何らかの取組を行っている企業の方が収益を確保している。

高齢者の活用については、65歳まで働きたいと考える従業員の割合が最も高い一方で、定年は60歳以前とする企業の割合が最も高い。また、55歳以上の層において中小企業が正社員として活用する割合が高い。また、就業していない人が仕事をしたい理由は「健康を維持したい」が最も多くなっているが、世帯主が65歳以上の勤労者世帯において、高齢者は「収入を得ること」が働く動機となっている。高齢者の活用の効果として、「有能な人材の確保・維持」や「従業員の就業意識の向上」などがあったと考えている中小企業が多い。実際に、高齢者を活用している企業の収益状況は良くなっている。このように、自社の収益に結びつけられることから高齢者を活用することが望ましい。

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