目次

経営相談どっと混む

第6章 情報技術の活用(応用)

6-1 他社事例は参考にはなるがマネはできない

他社事例というのはマネすることはできません。なぜなら、他社と問題点が同じだとしてもその原因まで全く同じということはありえないし、経営資源も異なるからです。原因が異なれば解決すべき課題も異なるし、経営資源が異なれば、改善・改革・開発の方法も異なるからです。したがって、他社事例をマネしたくてもできません。他社が改善・改革・開発できたのは、問題点を解決するために自助努力したからです。自助努力する以外に方法はないのです。

どのような会社でもできそうな改善事例を一つ挙げましょう。かつて、本田技研工業が「社内文書はすべてA4一枚に統一する」と決めて実行したことがあります。社内文書ですから、この改善によって何かトラブルが発生したとしてもお客様や取引先に直接迷惑をかけることはありません。よって、この改善を多くの企業がマネしようとしましたが、ほとんどの企業がマネできませんでした。この改善は簡単なようで難しいのです。単なる業務の簡素化、あるいは書類の削減などではないのです。この改善をマネするために社員一人ひとりがどのような努力をしなければならないかを考えてみてください。

まず、文書の作成側を考えてみますと、A4一枚で書かなければならないので、要点を整理して書かなければなりません。つまり、文書作成の技術が必要です。この技術を社員全員が習得しなければなりません。多くの人にとっては作文は苦手なのです。よって、習得するまで時間がかかります。

次に、文書を読む側を考えてみますと、例えば、A4一枚の営業報告書を見ても、営業内容を詳しく知ることはできませんし、会議議事録を見ても、会議内容を詳しく知ることはできません。要点だけしか分かりません。よって、限られた情報の範囲で意思決定をし、また、実行せざるを得ないのです。しかも、間違った意思決定や、実行は許されません。では、どうするかといいますと、常にアンテナを立てておき自ら必要な情報を日ごろから収集しておかなければならないのです。

ホンダの狙いは、単に、業務の簡素化によるコスト削減ではないのです。社員一人ひとりのコミュニケーション能力と、情報の取捨選択能力を高めることにより、間違った意思決定や実行をしないようにすることにあります。社員全員がそういう会社の狙いを理解して、改善に取り組む必要があります。このような努力がなければマネはできません。

さて、他社事例をマネするのではなく、あくまで参考にしたいという企業があります。こういう企業は改善・改革・開発の結果や経緯ではなく、方法を知りたいと思っているのです。結果をマネすることはできないが、方法を参考にできることを知っているのです。そして、方法を自社に取り入れようとしているのです。こういう企業はかなり改善・改革・開発を行っている先進的な企業です。このように、他社事例を知りたいという企業の中には、改善・改革・開発の結果や経緯を知ってそれをマネしようとする企業と、改善・改革・開発の方法を知ってそれを自社に取り入れようとする企業とがあるのです。

ところで、ITベンダーは自社開発したソフトやITシステムを販売するために、他社事例を紹介します。ITベンダーが自社開発したソフトやITシステムによって、他社の問題点が解決できたことを宣伝します。他社のマネをすれば問題点が解決できると思っている多くの企業がITベンダーの製品を購入し、結局、ムダな投資をすることになります。こういう企業が後を絶ちません。いつになったらなくなるのでしょうか。しかし、これはITベンダーが悪いのではありません。安易に他社のマネをしようとした企業の自業自得なのです。

ITベンダーの中には企業の問題点を解決するために、企業と一緒になって、原因を追究し、どうしたら解決できるかを検討し、必要ならば競合他社の開発したソフトやITシステムを紹介してくれるところもあります。しかし、そういう親切なITベンダーはあまりおりません。通常のITベンダーは自社の製品を販売するのが目的ですので、企業の問題点が解決できなくてもそれは顧客に責任があると判断します。

さて、改善・改革・開発の方法を自社に取り入れて、自助努力によって解決すれば良いのですが、実はこれが難しいのです。なぜなら、通常、多くの他社事例は、問題点と経緯、それに結果だけしか公開されないからです。改善・改革・開発の方法(考え方や進め方)まで公開しません。これは故意にそうしているのではなく、公開する紙面の都合でそうせざるを得ないのか、それとも、方法の重要性を知らないからだと思います。直接聞けば時間をかけてじっくりと教えてくれることが多いのです。筆者に言わせれば、結果や経緯はどうでもよくて、どういう方法でそうした結果を導き出したのかを知りたいのです。実は、多くの企業ではあまり意識していないようですが、改善・改革・開発の方法(考え方と進め方)はコンサルティングノウハウになります。それで、次回から弊社のコンサルティングノウハウを順次公開することにします。参考にしていただき、御社の改善・改革・開発に役立ててください。

ところで、ついでに書いておきますが、コンサルティングの際に、顧客企業から必ずと言っていいほど教えて欲しいと言われるのが他社事例です。しかも、弊社だけが知っていて一般に知られていないものを知りたがるのです。つまり、弊社が関与した企業の事例で公開されていないものです。しかし、それはできない相談です。そこを何とか、と言われる企業もありますが、そういう企業には、「では御社の事例を他社で紹介してもいいですか」と聞きますと、それは絶対にダメだと言います。

コンサルティング事例は企業秘密です。企業の問題点は企業の恥部であって、たとえ、改善・改革・開発して問題点がなくなったとしても、企業秘密を他社に話すことは絶対にありません。コンサルタントには守秘義務がありますので、たとえ、顧客企業が違法行為をしていて、警察や検察からその実態を話して欲しいと頼まれても絶対に話すことはありません。ところが、自慢げにコンサルティング事例をべらべらと話すコンサルタントがいます。そういうコンサルタントには絶対にコンサルティング依頼をしてはいけません。御社の秘密を他社でべらべらと話すでしょうから。

コンサルタントが話す他社事例は公開されたもの、あるいは顧客企業の許可を得たものに限られます。それでも参考になる事例はたくさんあります。ところが、参考になりそうな事例を話しても参考にならないと言う企業があります。そこで、なぜ参考にならないのかと聞きますと、同業他社の事例ではないからと答えます。多くの企業ではやはり同業他社のマネをしようとしているのです。しかし、異業種の事例が知りたいという企業もあります。同業他社の事例は比較的容易に知ることができるが、異業種の事例はあまり知る機会がないからです。しかも、異業種の事例は改善・改革・開発の方法が異なる場合が多いので参考になるのです。

ある金融機関で商品開発のコンサルティングをしたことがあります。それまで、金融商品の開発のコンサルティングはしたことがなかったので、最初はコンサルティング依頼をお断りをしました。ところが、試しにメーカーの商品開発プログラムを提案したところ、是非参考にしたいということになり、コンサルティングすることになりました。そして、自動車部品メーカーなどの商品開発の事例を紹介しながらコンサルティングを進めたところ、その金融機関では、早速その方法を参考にして自社に合った金融商品の開発プログラムを作成し、金融商品の開発をしたのです。自動車メーカーなどの改善・改革・開発は進んでいるので、その方法は多くの流通業やサービス業で参考にすることができるのです。

Ⓒ 経営相談どっと混む

目次