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第2章 現状業務の顕在化(見える化)

2-1 現状業務の見える化が難しい理由

業務(デスクワーク)の改善・効率化を行うには、現状業務の実態の顕在化(見える化)が欠かせません。しかし、直接部門(ブルーカラー)の作業の見える化に比較して、業務の見える化は非常に難しいのです。業務効率化はムダな業務の削減ですから、まず、現状業務の内容(方法)とその時間を見える化しなければなりません。しかし、これが非常に難しいのです。そのため、業務の改善・効率化が進まないのです。

もちろん、業務の効率化は業務の情報化(IT化)ではありませんので、一般的に使われている業務フロー(ワークフロー)やDFD(データ・フロー・ダイアグラム)などのUML(オブジェクト指向に基づく構造化技法)を用いてもダメです。なぜなら、これらの手法を用いてもムダな業務を発見することはできないからです。

ところで、既に説明しましたように、業務フロー(ワークフロー)は昔は事務工程分析と呼ばれていました。工場現場で使われている工程分析の手法を事務(デスクワーク)に応用したもので、日本能率協会や産業能率大学などが中心となって推進したものです。しかし、事務工程分析は各工程(事務作業)の付加価値分析や時間分析を行う本来の工程分析ではなく、情報化(IT化)するための見える化だったのです。

この事務工程分析がその後、簡略化され、現在は業務フロー(ワークフロー)という名称になっています。そして多くの企業で使われています。しかし、かつての事務工程分析と同じで、ムダな業務とその時間が見えるような分析にはなっていません。

工場現場で使われている工程分析は、IE(管理工学)の技術で、各工程の付加価値分析と各工程の時間を測定・分析するものです。これについては、JIS規格にもなっています。ところが、現在、IT化のために使われている業務フロー(ワークフロー)は、付加価値分析も時間分析も行いません。単に、どのような業務をどのように行っているかを見える化するだけです。よって、このまま情報化(IT化)すれば、当然、付加価値のないムダな業務までIT化することになるのです。これではIT化しても生産性は向上しません。

実際に、現在市販されている数十社のワークフローを筆者が調べたところ、付加価値分析や時間分析を行うものは1つもありませんでした。単に、業務内容を細かく見えるようにしただけです。

また、業務フロー(ワークフロー)は業務の時間分析を行わないので、業務時間が分からないのです。つまりは業務コストが分からないわけです。情報化(IT化)しても、単に、業務の処理スピードが速くなるだけです。つまり、ムダな業務まで処理スピードを速くしているだけなのです。ということは、ムダな業務にわざわざ金をかけてIT化しているのです。二重のムダです。愚かと言うほかありません。

そのうえ、多くの企業では業務時間をきちんと管理しておらず、ほとんど担当者任せになっているので、IT化しても業務時間は従来と変わらなのです。IT化して短時間でできるようになった業務でも、だらだらと長時間かけて行うこともできるのです。しかも、安易に業務をIT化してしまったために、かえってムダな業務が分からなくなってしまったのです。

では、なぜ、多くの企業では業務の付加価値分析や時間分析、あるいは業務の管理ができないのかでしょうか。それは、付加価値のないムダな業務を発見したり、業務別の時間を測定するのが難しいためです。その理由は、

  1. 業務を行う都度、業務内容が異なるからです。また、そのため業務時間がその都度異なるからです。
  2. 同じ業務を行っていても、人によって業務時間が大きく異なるからです。
  3. 各人がいろいろな業務を並行して行っているからです。

まず、1つ目の理由についてですが、繰り返し行うルーティンワークでも、業務の内容がその都度異なります。例えば、毎日行う「受注処理」でも、受注する内容は受注のたびに異なりますから、受注処理内容も受注処理時間も異なるのです。

これに比べて、工場の直接作業の場合には、例えば、同じ部品を複数個作る作業は、作業内容(方法)がどれも同じですから作業時間もほとんど同じです。よって、同じ作業を10回行って、10個の部品を作り、それぞれの時間を測定し、10で割って平均し、その作業の平均作業時間とすることができます。

次に、2つ目の理由、「人によって業務時間が大きく異なるから」についてですが、例えば、同じ「出張報告書の作成」でも、Aさんは3分でできる、Bさんは30分かかる、Cさんは3日かかるというように、人により大きく時間が異なるのです。デスクワークの場合には、出張した人が出張報告書を書かなければなりません。他の人に任せることができないのです。ですから、人によって時間が大きく異なるのです。この理由は、

  1. 各人の業務処理能力が異なるからです。つまり、各人の業務に対する知識・経験、熟練度、思考・判断能力などが異なるからです。
  2. 各人の業務処理方法が異なるからです。つまり、この例の場合、出張報告書の書き方が異なるからです。
  3. 各人が行っているいろいろな業務の優先度・重要度により、時間のかけ方が異なるからです。
  4. 各人の性格が異なるからです。計画的にきちんと仕事をする人もいれば、のんびり、ゆっくり仕事をする人もいます。

これらの理由については、どのような業務についても同じです。これに対して直接作業の場合にはこのようなことはあまりありません。なぜなら、実施する作業は作業者の経験や熟練度によって決め、そのうえ、作業ごとに作業方法を決め、作業計画を立て、作業管理をきちんと行うからです。

よって、直接作業の場合は人により作業時間が多少異なっていても、デスクワークに比較すると大きな差はありません。よって、作業者の経験や熟練度を考慮し、休憩などの余裕時間を加味すれば、その作業の標準時間を設定することができます。

実際に、工場現場ではこのようにして作業の標準時間を設定しています。そして、作業ごとの標準時間を基に、製品ごとの標準時間を設定します。そうすれば、製品ごとの生産計画、要員計画なども立案できます。また、製品ごとの品質管理、納期管理もできます。

また、この製品ごとの標準時間に賃率を掛ければ、製品ごとの標準原価が設定できます。よって、標準時間を基に原価管理も行うことができます。つまり、作業ごとの標準時間は工場管理のための基礎データとなるのです。

しかし、デスクワークの場合はこのようなことができません。デスクワークでは業務を行う都度、その内容も時間も大きく異なるので、業務ごとの標準時間を決めることができないのです。毎日繰り返し行う業務についてはまだ良い方で、週に1回行う業務、月に1回行う業務、半年に1回行う業務、1年に1回行う業務と頻度が少なくなるにつれ、一層その内容が変わりますし、時間も変わります。担当者も変ってしまいます。

例えば、通常1年に1回行う「経営計画の策定」や「予算編成」などを考えてみればお分かりかと思います。年によって業務内容、及び業務時間が大きく異なり、数年分の時間を平均するというわけにもいかず、結局、平均的な業務時間を決めることができないのです。

また、たとえ、その年の実際の業務内容、及び業務時間を基に、問題点を発見して改善案を作り、翌年その改善案を実施しようとしてもダメです。なぜなら、翌年になれば内容も時間も変わっているので、改善案が実施できなかったり、仮に実施できたとしても、改善効果が分からなくなったりしてしまうのです。

毎日行う業務、毎週行う業務、毎月行う業務などの頻度が比較的多い業務については、まだ改善しやすいのですが、それでも多くの企業では改善をあまり行っておりません。その理由は、何度も書きますが見える化が難しいからです。なお、再確認ですが、本書で言う見える化とは、付加価値のないムダな業務を見える化することです。IT化のための見える化ではありません。

最後に、現状業務の見える化が難しい3つ目の理由、「各人がいろいろな業務を並行して行うから」についてですが、いろいろな業務を並行して行えば、各業務と時間との関係を正確に捕えることが難しくなります。よって、ほとんどの企業では通常は正確には捕えていません。せいぜい、日報に概略の時間を記録する程度です。

ところが工場現場では、並行作業を行う場合でも、作業ごとの時間について正確に測定・記録しています。例えば、作業者が1人で複数台の機械を同時に動かして、いろいろな作業を並行して行う場合です。これを多台持ち作業と言います。

では、どうすれば業務の見える化ができるのでしょうか。それを次回説明したいと思います。

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