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1-9 従業員のやる気を引き出すには(1)

たとえ経営者がやる気になったとしても、従業員がやる気にならなければ、業務効率化・業務改革活動は成功しません。そのため、必ずと言っていいほど、従業員のやる気を引き出すにはどうしたら良いかについて経営者から質問を受けます。改善・開発・改革などの活動を行う際に、従業員が反対する理由を調査してみると、そもそも仕事をしたくない、できるだけ楽して給料をもらいたいと考えている人が多いことが分かります。つまり、やる気のない人が多いわけです。

最近では、デスクワークはパソコンを使って行います。そこで、企業によっては各自のパソコンのログを取っておき、パソコンの利用状況を記録しています。どのパソコン(誰)がどの時刻にどんな作業をしたのかが明確になるわけです。この結果を円グラフにすれば、一目瞭然で仕事をしていた時間やアダルトサイトを見ていた時間などが分かります。

仕事をろくにしないで、アダルトサイトなどを見ている人に限って、「仕事している分だけ給料をよこせ」などと言います。そういう人にはパソコンのログを示して、本人の希望通り、仕事している分だけ支払えば給料はかなり少なくてすみます。しかし、パソコンのログを取っている企業でもそんなことはしません。なぜなら、そんなことをしてもやる気になるとは思えないからです。やる気にさせる方法の1つは仕事の成果を正しく評価することです。しかし、これができていない企業が多いです。

どんな仕事でも一人前になるまでには最低でも5年はかかります。昔は、10年かかると言われていました。最近では企業間競争が激しく10年もかけていられないので、できるだけ早く仕事を習得させようとしています。一人前という意味は上司や先輩の手を借りずにひとりで仕事ができるという意味です。つまり、一人前になるまでは、上司や先輩の手を借りながら、又は指導を受けながら仕事をするわけです。仕事をすると言うよりもむしろ、上司や先輩の手伝いをしているのです。

通常、新入社員を一人前にするまでに、大企業では年間平均で1千万円、中小企業では年間平均で7、8百万円必要だと言われています。したがって、5年間で大企業では5千万円、中小企業では3千5百万円から4千万円ぐらいかかるわけです。

実際に、間接費を除いて本人にかかる直接人件費を、次の計算式で計算してみると、実際にそうなっていることが分かります。御社の場合について計算してみてください。

直接人件費=年間給料+法定福利費+福利厚生費+備品費+事務消耗品費+教育費+会社負担損失金

この中で、最も大きいのは、実は教育費です。通常、上司や先輩たちは自分の仕事をしながら新人に対して教育する(OJT)わけですが、教育している時間は上司や先輩たちは自分の仕事ができないわけですから、その時間は新人のために使っているのです。つまり、上司や先輩たちの給料の何割かが新人の教育費になるのです。したがって、通常、新人の給料よりも、教育費の方が高くなります。また、会社負担損失金というのは、新人が会社の備品を壊したり、不良品を作ってしまったり、顧客に迷惑をかけて会社の信用をなくしてしまったりといった場合に、会社が負担する費用です。

一方で、新人がどのくらい仕事をして会社の売上や利益に貢献したかを見積もると計算できないほど微々たるものです。何しろ上司や先輩の仕事を多少手伝っている程度ですから。

以上のことから、新入社員が仕事をした分と会社が負担した費用とを比較すると、新入社員が一人前になるまでは会社が負担した費用の方が大きくなります。また、5年後に一人前になったと仮定すると、その時に、仕事をして稼いだ分と会社が負担した分とが同じになると考えます。つまり、プラスマイナスゼロになります。そして、6年目から会社のプラス分が大きくなります。その後、数年かけて、それまでの会社負担分、中小企業ならば3千5百万円から4千万円を会社に返さなければなりません。仮に、3年ですべて返済できたとすると、入社後8年ぐらい経ってようやく実際に稼ぐことができ、会社にとって実際にプラスになるわけです。

つまり、入社後8年以上経って実際に稼いでいる人ならば、堂々と、「仕事をしている分だけ給料を払え」と言えますが、そうでない人は会社にまだ借金をしている状況ですから、そんな偉そうなことはことは言えないはずです。まして、仕事中にアダルトサイトを見ているようでは、10年経っても会社に対する借金は返せないでしょう。従業員は会社がそういう見方をしていることを知っておく必要があります。当然です。会社は遊ぶところではなく仕事をして稼ぐところですから。

したがって、会社にとっても最も困るのが、入社後、数年で退職されてしまうことです。早く一人前にしようと、年間7、8百万円かけて数年間教育したのに、すべて損失になってしまうからです。例えば、離職率が高い小売業や飲食業などでは離職率が3割以上となっています。

そこで、そうならないようにする1つの方法として、正社員ではなくアルバイト(非正社員)として雇うのです。しかも、アルバイトとして雇うのは、当然、すぐに仕事ができる人、あるいは、すぐに売上や利益になるような仕事だけです。そして、数年、働きぶりを見てからやる気と能力のある人を正社員にするのです。また、最初から正社員として採用したとしても、見習い期間を設けます。この期間に正式に採用すべきか否かを判断するのです。

さて、離職率を下げる根本的な対策として人事制度の見直しがあります。主な人事制度には、年功的人事制度、能力主義人事制度、実力・成果主義人事制度の3つがあります。それぞれにメリット・デメリットがありますので、それらを踏まえて見直しする必要があります。詳しくは第3章に書いてありますので、ここでは要点だけを書いておきます。

年功的人事制度は年功すなわち、学歴、年齢、勤続年数などに応じて昇給・昇進を行う制度で、高度経済成長時代に適した人事制度でした。その特徴から中途退社する人はあまりおりませんでした。中途退社して他の会社に転職すると、また新入社員(勤続年数ゼロ)として扱われてしまうからです。

この制度では、新入社員にはやっと生活できる程度の給料しか払いません。現在の貨幣価値で10万円程度でしょうか。よって、アパートを借りることも、外食することもできないので、自宅通勤者以外は社員寮に入居して、社員寮の食堂、又は社員食堂で食事をします。したがって、若者は早く年を取ればいいのにとひたすら願っていたものです。ほとんどの大企業ではこの制度を採用していましたので、「寄らば大樹の陰」という思いの人たちが大企業に入社し、年功的人事制度のもとで働きました。

一方で、当時の高度経済成長期でも、やる気のある若者は年功的人事制度を嫌って、能力主義人事制度、又は実力・成果主義人事制度の会社に入社しました。こういう会社は中堅企業に多かったです。そして、実際に能力があり、また実力がある人はバリバリと働いて、大企業に勤めている人よりも高い給料をもらっていました。しかし、年を取るにしたがい、大企業に就職した人の方が給料が高くなりました。

ちなみに、多くの中小企業では当時はもちろん現在でも、人事制度など存在しないと言ってもいいでしょう。あっても形だけで経営者の好き嫌いで社員の昇給・昇進を決めているのが実態です。

高度経済成長が終わると売上が減少すると共に、少子高齢化社会となりました。よって、若者の労働者が不足したため初任給が高くなりました。実際に、大卒の初任給は20万円程度になりました。新入社員でも、アパートを借りて住むこともできるし、外食もできるようになりました。しかし、企業にとっては人件費が大きな負担となりました。そこで、日経連(現在の日本経団連)の主張もあって、多くの大企業では年功的人事制度から能力主義人事制度へ転換しました。その後、二度のオイルショックや円高不況を経て、能力主義人事制度がいっそう普及しました。

能力主義人事制度というのは仕事をする能力、すなわち職務遂行能力に応じて資格等級を設け(職能資格制度)、これに基づき昇進・昇給、配置転換、能力開発などを行う制度です。能力主義人事制度は一見納得できる制度のようですが、その基となる職務遂行能力をどのように評価するかが問題です。職務遂行能力は、業務処理能力だけでなく、やる気(貢献意欲)と態度(職務規定を守るなど)とが含まれます。そこで、人事評価を行いますが、そもそも人を正しく評価するのは難しいことです。企業によっては上司だけでなく同僚や部下からも評価してもらい総合的に判断します。しかし、それでも本人が納得するとは限りません。

そこで、企業によっては、形は能力主義人事制度であっても、実質的には従来の年功的人事制度になっている企業もあります。むしろ、従業員が多く、1人ひとりを正しく人事評価するのが難しい大企業では、この傾向が強いかもしれません。

そこで、能力主義人事制度ではなく、実力・成果主義人事制度を採用する企業もあるわけです。この制度は最も従業員が納得できる制度なのです。例えば、メーカーでは設計、製造やITなどの技術に関する実力は明確に資格等級でランク付けできますし、仕事の成果は明確に分かりますから、それらに基づいて昇進・昇給を決めれば良いわけです。要するに、プロスポーツ選手と同じなのです。そのため、リーマンショック後の景気後退期には、この制度が急速に普及しました。ところが、その欠点から次第にこの制度は採用されなくなりました。

その欠点というのは、部下を教育しなくなることです。部下を教育すれば、その時間、自分の仕事ができなくなるだけでなく、部下が仕事ができるようになれば自分の仕事を奪われてしまう可能性があるからです。つまり、部下を教育すればするほど自分の給料が下がってしまうのです。また、その結果、技術やノウハウが個人に蓄積され、会社に蓄積されなくなってしまうのです。したがって、数年して技術やノウハウを蓄積した人は、より労働条件の良い会社に転職してしまうのです。

さて、ではどの人事制度が最も良いのか。ここでは結論だけを書いておきます。業務内容と本人の希望に応じて決めれば良いのです。つまり、業務の特徴を踏まえて複数の人事制度を複線的に導入すれば良いのです。10年以上かけなければ習得できないような仕事には年功的人事制度を採用します。例えば、メーカーでは設計、製造などの固有技術に関わる仕事です。必要に応じて労働市場(社外)から調達できるような仕事には実力・成果主義人事制度を採用します。例えば、経営企画(経営者)、販売(営業)、生産管理、品質管理、原価管理、情報管理などの経営管理技術に関する仕事です。そして、会社の風土・特質を踏まえて行う仕事には能力主義人事制度を採用するのです。総務、人事管理などの仕事です。

このように、業務内容に応じて人事制度を決めれば従業員にとっても会社にとっても都合が良いのです。ところで、上の説明でお分かりのように、経営者は経営能力のある専門経営者を市場から探して雇うべきです。日本の会社の社長のほとんどが自社、又は関連会社出身者ですので、経営能力があるかどうかは分かりません。むしろ、全く異なる業界から、実力ある専門経営者を雇った方が良い経営ができるのです。

さて、離職率を劇的に下げ、従業員のやる気スイッチを入れるには、従業員個人個人の動機付けが必要です。これについては、次回説明します。

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