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1-4 業務を情報化(IT化)しても効果が分からないのは経営者の意識に問題がある

デスクワーク(経営管理業務)というものは伸縮自在です。3分でできる仕事を30分かけて行うこともできますし、3時間でできる仕事を3日かけて行うこともできるのです。なぜなら、担当者が自由に業務時間を調節できるからです。つまり、業務を情報化し業務時間を短縮しても、業務全体の時間を引き伸ばしたり、新たにムダな業務を作り出したりすることができるのです。

このことは、学生時代の勉強を思い出せばどなたでも理解できるでしょう。3分でできる宿題を30分かけて行うこともできますし、3時間でできる宿題を3日かけて行うこともできるのです。生産や営業の現場のように、日々の生産計画や販売計画がきちんと決められている場合とは異なり、デスクワークの場合には1日をどのように過ごすかは社員1人ひとりの自由裁量に任されているからです。

ちなみに、「仕事が増えないのに人は増える。なぜなら、人は部下を欲しがるから(第1法則)」「人が増えると仕事も増える。なぜなら、人は仕事を新たに作るから(第2法則)」というパーキンソンの法則があります。これと同じように、「業務を情報化して時間短縮しても、全体の業務時間は変わらない。なぜなら、業務時間は伸縮自在だから」です。従業員の中には、業務をテキパキと短時間でこなす人もいれば、だらだらと長時間かけて行う人もいます。企業を比較しても、従業員全員ができるだけ短時間で行うように努力している企業もあれば、従業員全員がだらだらと長時間労働を行っている企業もあるのです。そして、こうなるのは経営者の意識(考え方・価値観)に違いがあるからです。

一例を挙げましょう。毎日遅くまで残業をしている会社があります。この会社の経営者は、「我が社は残業をしないと競争に勝てない」と言います。一方、全く残業をしていない会社があります。この会社の経営者は、「残業をするのは社員の能力が不足しているからだ、短時間に質の高い仕事をするのが有能な社員だから、むやみに残業するような無能な社員はいらない」と言います。

通常、多くの残業をしている会社の業績は悪く、あまり残業をしていない会社の業績は良いのです。業績が悪いから残業をするのではなく、残業をしているから業績が悪いのです。なぜなら、だらだらと長時間労働をするのは仕事の質が落ちるし、ムダな経費を使うからです。良いアイデアも出ず、したがって良い仕事もできなくなるのです。それなのに、残業をしているのは社員ががんばっているからだと経営者が思い込んでいるのです。

つまり、デスクワークを手足を動かす肉体労働であると経営者が考えているのです。デスクワークは主に頭を使う思考・判断業務であり、知識とアイデア(知恵)と経営管理技術が重要であることを理解していないのです。

デスクワークを行う経営管理部門は、直接部門に対するサービス(支援)部門であり、直接部門が、より多くの付加価値を獲得できるように支援する部門です。また、経営管理部門は顧客価値の向上を図るためや競合他社との競争に勝つために、経営戦略や経営計画を立案して実行する部門です。さらに、これらの業務そのものを改善・効率化して、短時間でより質の高い業務を行うようにする部門でもあるのです。簡単に言えば、経営管理部門はアイデアと技術で他社と競争しているわけですから、量より質が問われるのです。

人は頭がすっきりしている時や、やる気のある時には良いアイデアが出て、良い仕事ができるのです。ですから、休憩・休息やレクリエーション(再生)が必要なのです。ちなみに、労働基準法により、従業員が残業をすれば会社は残業代を払わなければなりませんが、逆に、残業をすると罰金を取るという会社もあります。会社が禁止している残業を行って、質の悪い仕事をしたり、ムダな経費を使うからだそうです。このため、この会社では実際に残業する人はいないので罰金を払った人はいないそうです。

また、多くの企業が水曜日を「ノー残業デイ」と決めています。「ノー残業デイ」は直接部門には必要な日ですが、経営管理部門には必要のないものです。毎日をノー残業デイとすれば良いのですから。定時になったら全ての電気を消すという会社もあります。このような会社では業務量が増えれば従業員が自ら効率化(時間削減)しようと努力します。なぜなら、早く帰りたいからです。

残業せざるを得ないと言う企業の中には、取引先から急な仕事を頼まれるからとか、顧客から明日までにどうしてもやって欲しいなどと頼まれるので仕方ない、と言い訳をする企業もあります。しかし、それらは企業の考え方次第であって、ムリな依頼は断れば良いのです。普段から短時間で良い仕事をしようと努力している企業には、取引先や顧客もムリな仕事の依頼をしません。

普段からだらだらと長時間労働をしている企業では、取引先や顧客からのムリな依頼をむしろ喜ぶ企業もあります。堂々と残業ができるからです。従業員にしてみれば残業代を稼ぎたいですし、早く家に帰って家族に邪魔者扱いされるよりも、会社にいた方が良いと考える人もいます。いずれにしても、このような従業員の考え方や行動は、経営者の考え方次第です。したがって、情報化を進めたけれど業務時間が変わらないとか、その効果が分からないという企業は、ほとんどが経営者の意識(考え方・価値観)に問題があります。

ところで、最近、業務効率化(ムダな業務の削減)のために安易にITを活用することが流行しています。ムダな業務の廃止・削減を行わないで、◯◯システムやERPパッケージなどを導入して業務時間を短縮しようという方法です。しかし、これは非常に安易な考えであることが以上の説明でお分かりかと思います。ムダな業務を明確にし、廃止・削減しないまま情報化を進めても、それこそムダな投資やムダな活動になってしまいます。

ムダな業務を指示命令している人やムダな業務を作り出している人の意識(考え方・価値観)を変える必要があるのです。ITを活用するのは必要なことですが、ITは単に情報の処理と伝達・蓄積の道具に過ぎず、業務時間の短縮はできますが、ムダな業務の削減はできません。それどころか、ムダな業務にわざわざ金をかけて情報化するという愚を犯すことになるのです。ムダな業務を廃止・削減した後に、ムダでない業務を情報化してさらに時間短縮する必要があるのです。

まして、中期経営計画の達成を目的に、ムダな業務の削減だけでなく、既存業務の強化や新規業務の設計、あるいは新規事業の計画・実施などを推進する業務改革はERPパッケージなどを導入しただけではできないことはお分かりでしょう。要するに、ERPパッケージを導入しても業務改革はできないのです。IT投資がムダにならないように、ITの活用方法を良く検討していただきたいと思います。

たとえ、情報化によって、一見、業務時間の短縮ができたとしても、すぐに元に戻ってしまいます。なぜなら、何度も言いますが、デスクワークというのは伸縮自在であり、いくらでも業務時間を引き延ばすことができるし、また、ムダな業務を作り出すこともできるからです。人の意識(考え方・価値観)を変えてムダな業務を廃止・削減し、ムダな業務を二度と作り出さないように歯止めをかけてから情報化を進めなければならないわけです。

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