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1-4 今こそ、ホワイトカラーの業務効率化、及び業務改革を行うべきである

最近、政府が「働き方改革」として労働基準法を中心とした労働関係法の見直しを行い、日本の生産性を向上させようとしています。その理由は、ひとことで言えば、日本の将来の経済が危なくなったからです。その主な原因は少子高齢化による労働力不足ですが、それだけではありません。欧米に比べて日本の生産性が非常に低いため、このままでは欧米に対抗することができないからです。

労働力不足に対しては、政府は外国人労働者や高齢者、あるいは女性が働きやすい環境づくりを行おうとしています。しかし、現状の実態を考えると、単に労働者を増やそうとしても効果がないことは明白です。それは、サービス残業、低賃金などの不当な労働実態にあります。

このような実態を取り締まるのが労働基準監督署ですが、職員が圧倒的に不足しているためほとんど機能していません。そのため、労働基準監督署がこのような実態を黙認することになってしまうだけでなく、むしろ、助長していると言っても過言ではありません。さらに悪いことに、今後も職員の数を減らそうとしているようです。

生産性向上に対しては、政府はITの活用を念頭に置いており、IT人材の育成に力を入れています。確かに、IT人材は不足しています。ITを活用した技術開発や商品開発、あるいはシステム開発ができる人材が不足しています。しかし、日本ではITの利用はかなり進んでいるのです。企業におけるパソコンやタブレットなどの情報機器の利用は、企業の80%以上に達しているうえ、業務アプリや◯◯システムなどのソフトウエアの利用もかなり進んでいます。そして、むしろ、これらによる弊害さえ生じているのです。

その弊害の1つが、ホワイトカラーの生産性が欧米に比べて非常に低いことです。多くの企業がITを利用すれば生産性が向上すると勘違いしたために、創意工夫によって生産性を向上させる努力を全く行ってこなかったからです。今こそ、頭を使って業務効率化、及び業務改革を行い、ホワイトカラーの生産性を向上させなければいけません。このままでは、日本の企業は欧米に勝つことはできず、日本の将来はありません。

数十年前から、メーカーでは多品種少量生産、及び製品の高付加価値化が進展したために、製造原価に占める製造間接費の割合が高くなっています。また、サービス経済化の進展により、日本の産業に占めるサービス業の割合が高くなっています。これらによって、ホワイトカラーの業務量が増大し、またホワイトカラーが増加しているのです。つまり、人件費が非常に高くなっているのです。

それにもかかわらず、ホワイトカラーの業務の改善・効率化が進まないのは、単に、本気になって改善・効率化しようとしていないからです。つまり、IT任せで、創意工夫によって改善・効率化を行っていないからです。

筆者はこれまで30年以上の間、経営コンサルタントとして、一部上場企業から小規模企業まで多くの企業で、創意工夫によって業務効率化、あるいは業務改革のコンサルティングを行ってきました。

この本を書くきっかけは、筆者が学生時代から40年以上経っているのに、未だに欧米に比べて、あるいは直接部門に比べてホワイトカラーの生産性が非常に低いことです。そこで、これまで行ってきた筆者のコンサルティングの考え方と進め方を整理してみました。そして、コンサルタントを使わなくても企業が自ら実施できるように分かりやすく書いてみました。

この考え方と進め方を多くの企業で活用してもらい、ホワイトカラーの生産性を向上させ、ムダなIT投資をしないようにしていただきたいのです。

そこでまず、40年以上前から現在まで、多くの企業で実際に行った業務効率化、あるいは業務改革の試み、すなわちホワイトカラー(経営管理部門)の生産性を向上させる試みをリストアップしてみると、次のようになります。

  1. 事務分析(IEの工程分析を事務に応用したもの)
  2. ソフトVA(製品のコスト削減技術VAを業務に応用したもの)
  3. MIC計画(IEの考え方を業務に応用したもの)
  4. VIP(IEとVEの考え方を基に意識改革を行うもの)
  5. DIPS(IEの考え方を業務に応用したもの)
  6. VEアプローチ(VEの考え方を業務に応用したもの)
  7. BPR(ITを活用して業務革新を目指したもの)
  8. ABC(活動基準原価計算:業務別コストを計算して業務の原価管理を行うもの)

これらに関する本は、巻末に「参考文献」として掲載してあります。これらの本は業務の改善・効率化、あるいは業務改革について書かれたものです。なお、VIPについては市販された本はありません。

これら以外でも、ホワイトカラーの生産性を向上させるための本はいろいろあり、企業が参考になると思われる本を「参考文献」に掲載いたしました。しかし、これらの本は内容があまり科学的でなかったり、方法や手順が書かれていなかったりするので、実際に企業で実施することは難しいと思います。

さて、上記のいろいろな試みは、いずれも的を射たものではなかったのです。そのため、効果が一時的、あるいは部分的であり、根本からホワイトカラーの生産性を向上させることができなかったのです。例えば、事務分析は工場現場で用いるIE技術の1つである工程分析を事務に応用したもので、昔は、事務工程分析と呼ばれていました。

しかし、事務分析は手作業で行う事務作業の分析であって、思考・判断を要する業務(デスクワーク)に適用することはできません。また、事務分析を改良したものが現在ではワークフロー(業務フロー)と呼ばれておりますが、現在のワークフロー(業務フロー)も本来行うべき価値分析や時間測定を行っていません。ちなみに、本来の工程分析は各工程の価値分析や時間測定を行うものです。

よって、業務のIT化にワークフローを活用しても、価値分析を行わないので、価値のないムダな業務までIT化することになってしまいます。また、時間測定を行わないので、業務時間も業務コストも明確になりません。

その他の試みも同様で、IE(管理工学)やVA(価値分析)/VE(価値工学)などの改善・開発・改革技術を活用していても、これらの本来の考え方や技術を無視しています。すなわち、

  1. IEやVEの目的、考え方、進め方(方法と手順)、特徴(長所、短所)などを理解しないまま、業務に適用してしまったのです。
  2. 思考・判断を要する業務(デスクワーク)と手足を動かして行う作業の違いを理解しないまま、工場現場で用いられる作業改善の技術(IE)を業務に適用してしまったのです。
  3. 製品の改善・開発技術(VA/VE)をそのまま業務に適用してしまったのです。製品の改善・開発は思考・判断を要しますが、目に見える製品が対象です。しかし、業務は目に見えないので、思考・判断を行う頭の中を分析しなければ、業務効率化や業務改革はできません。
  4. 本来、業務とはどうあるべきかについての考察が全くなされていないのです。業務のあるべき姿を描いたうえで、業務(デスクワーク)の特徴を踏まえてIEやVEを適用しなければならないのです。要するに、業務とはどうあるべきかを充分に考察しないで、IEやVEを業務に適用したために業務の生産性が高くならなかったのです。
  5. ABC(活動基準原価計算)は、ホワイトカラーの業務量が増大しているため、従来の原価計算では製品原価が正しく計算できないので、活動(業務)を基準に原価計算を行って原価管理を行おうとするものです。しかし、いろいろな問題があり、日本ではあまり普及しておりません。

ちなみに、IEとVA/VEのそれぞれの目的、考え方、進め方(方法と手順)、特徴(長所、短所)、及びIEとVA/VEとの違い、業務(デスクワーク)と直接作業(物づくり)との違い、さらにABC(活動基準原価計算)の問題点、及び問題点を解消するための業務の目的別・機能別原価計算など、詳しくは、『文科系のためのコスト削減・原価低減の考え方と技術』に書きましたので、参考にしてください。

さて、これまで多くの経営コンサルタントが行った試みの中で、最も悪いのは、BPRです。BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)はアメリカのコンサルタントが日本の各社の業務改革活動を参考にして、アメリカに適した方法に作り変えたものです。そのため、いろいろな日本の業務の問題点を具体的にどう解決するかといった考察が全くなされておりません。なぜなら、日本とアメリカでは業務に対する考え方や進め方が全く異なるからです。

また、BPRはITを活用した業務革新を目指したものであり、日本のお家芸である改善(KAIZEN)、すなわち創意工夫による生産性向上を放棄したものであると言っても過言ではありません。

と言うのも、創意工夫による改善・効率化を行わないで、IT化を進めたり、情報機器を活用したりしても、それは砂上の楼閣に過ぎないからです。業務は人が行うものであり、ITや情報機器が行うものではないのです。ITや情報機器は道具に過ぎないと数十年前から言われ続けているにもかかわらず、BPRに多くの企業が飛びついたのは、ITや情報機器を活用すれば、ホワイトカラーの生産性が労せずして向上すると勘違いしたからではないでしょうか。

その背景には、日本人のいわゆる島国根性があるのかも知れません。つまり、日本人は井の中の蛙であり、常に、欧米人の方が優れていると考えるのです。かつて、欧米に追い付け、追い越せと頑張ったころの気持ちが未だに残っているのでしょう。このため、欧米のマネをして多くの企業がITを活用した業務効率化、業務改革を実施したのです。

また、BPRに目をつけ、盛んに営業攻勢をかけたのがITベンダーです。このため、ムダな投資を行う企業が後を絶たないのです。最近では、ITベンダーは「働き方改革」に目をつけ、いろいろな業務アプリや◯◯システムの宣伝を盛んに行っています。ITベンダーの誘いに乗って、ムダなIT投資をこれ以上行わないようにして下さい。ムダなIT投資を行っていれば、いつまで経ってもホワイトカラーの生産性は向上しないのです。

今こそ、ITを活用しないで、創意工夫によって業務効率化、業務改革を行って下さい。

ちなみに、ABC(活動基準原価計算)については、業務の分類基準がないため正確な業務別コストが計算できません。また、業務のあるべき姿に対する考え方がないため業務効率化も業務改革もできません。これについては第2章で書きます。また、業務の目的別・機能別原価計算については第3章で書きます。

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