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1-10 従業員のやる気を引き出すには(2)

改善・開発・改革などの活動を行う際に、従業員が反対する理由を調査してみると、それ以前に、そもそも仕事をしたくない、できるだけ楽して給料をもらいたいと考えている人が多いことが分かります。つまり、やる気のない人が多いわけです。

最近では、デスクワークはパソコンを使って行います。そこで、企業によっては各自のパソコンのログを取っておき、パソコンの利用状況を記録しています。どのパソコン(誰)がどの時刻にどんな作業をしたのかが明確になるわけです。この結果を円グラフにすれば、一目瞭然で仕事をしていた時間やアダルトサイトを見ていた時間などが分かります。

仕事をろくにしないで、アダルトサイトなどを見ている人に限って、「仕事している分だけ給料をよこせ」などと言います。そういう人にはパソコンのログを示して、本人の希望通り仕事している分だけ支払えば給料はかなり少なくてすみます。しかし、パソコンのログを取っている企業でもそんなことはしません。なぜなら、そんなことをしてもやる気になるとは思えないからです。やる気にさせる方法の一つは仕事の成果を正しく評価することです。これができていない企業が多いです。

どんな仕事でも一人前になるまでには最低でも5年はかかります。昔は、10年かかると言われていました。最近では企業間競争が激しく10年もかけていられないので、できるだけ早く仕事を習得させようとしています。一人前という意味は上司や先輩の手を借りずに一人で仕事ができるという意味です。つまり、一人前になるまでは、上司や先輩の手を借りながら、または指導を受けながら仕事をするわけです。むしろ、上司や先輩の手伝いをしているのです。

通常、新入社員を一人前にするまでに、大企業では年間平均で1千万円、中小企業では年間平均で7、8百万円必要だと言われています。したがって、5年間で大企業では5千万円、中小企業では3千5百万円から4千万円ぐらいかかるわけです。

実際に、間接費は除いて本人にかかる直接費を、次の計算式で計算してみると、実際にそうなっていることがわかります。御社の場合について計算してみてください。

年間給料+法定福利費+福利厚生費+備品+文房具+事務消耗品費+教育費+会社負担損失金

ここで、最も大きいのは教育費です。通常、上司や先輩たちは自分の仕事をしながら新人に対して教育する(OJT)わけですが、教育している時間は上司や先輩たちは自分の仕事ができないわけですから、その時間は新人のために使っているのです。つまり、上司や先輩たちの給料の何割かが新人の教育費になるのです。したがって、通常、新人の給料よりも、教育費の方が高くなります。また、会社負担損失金というのは、新人が会社の備品を壊したり、不良品を作ってしまったり、顧客に迷惑をかけて会社の信用をなくしてしまったりといった場合に、会社が負担する費用です。

一方で、新人がどのくらい仕事をして会社の売上や利益に貢献したかを見積もると計算できないほど微々たるものです。何しろ上司や先輩の仕事を多少手伝っている程度ですから。

以上のことから、新入社員が仕事をした分と会社が負担した費用とを比較すると、新入社員が一人前になるまでは会社が負担した費用の方が大きくなります。また、5年後に一人前になったと仮定すると、その時に、仕事をした分と会社が負担した分とが同じになると考えます。つまり、プラスマイナスゼロになります。そして、6年目からプラス分が大きくなります。その後、数年かけて、それまでの会社負担分、中小企業ならば3千5百万円から4千万円を会社に返さなければなりません。仮に、3年ですべて返済したとすると、入社後8年ぐらい経ってようやく実際に稼ぐことができ会社にとってプラスになるわけです。

会社にとっても最も困るのが、入社後、数年で退職されてしまうことです。早く一人前になるように、年間7、8百万円かけて数年間教育したのに、すべて損失になってしまうからです。離職率が比較的高い小売業や飲食業などでは離職率が3割以上となっています。

そこで、そうならないようにする一つの方法として、正社員ではなくアルバイト(非正社員)として雇うのです。そして、数年経ってからやる気と能力のある人を正社員にするのです。また、正社員として採用しても、見習い期間を設けます。この期間に正社員として正式に採用すべきか否かを判断するのです。ちなみに、コンサルタント業界では入社後8割以上の人が1年以内(見習い期間中)に退職してしまいます。その理由は、知識の習得ばかりして、どうしたら問題を解決できるか考えようとしないからです。コンサルタントに必要なのは知識ではなく、知恵です。企業に必要なのは知識よりも知恵だからです。

さて、離職率を下げる根本的な対策として人事制度の見直しがあります。主な人事制度には、年功的人事制度、能力主義人事制度、実力・成果主義人事制度の3つがあります。それぞれにメリット・デメリットがありますので、それらを踏まえて見直しする必要があります。詳しくは第3章に書いてありますので、ここでは要点だけを書いておきます。

年功的人事制度は年功すなわち、学歴、年齢、勤続年数などに応じて昇給・昇進を行う制度で、高度経済成長時代に適した人事制度でした。その特徴から中途退社する人はあまりおりませんでした。中途退社して他の会社に転職すると、また新入社員(勤続年数ゼロ)として扱われてしまうからです。この制度では、新入社員にはやっと生活できる程度の給料しか払いません。現在の貨幣価値で10万円程度でしょうか。アパートを借りることも、外食することもできないので、自宅通勤者以外は社員寮に入居して、社員寮の食堂及び社員食堂で食事します。したがって、若者は早く年を取ればいいのにとひたすら願っていたものです。ほとんどの大企業ではこの制度を採用していましたので、「寄らば大樹の陰」という思いの人たちが大企業に入社し、年功的人事制度のもとで働きました。

一方で、当時でもやる気のある若者は年功的人事制度を嫌って、能力主義人事制度または実力・成果主義人事制度の会社に入社しました。こういう会社は中堅企業に多かったです。そして、実際にバリバリと働いた若者は大企業よりも高い給料をもらっていました。しかし、年を取るにしたがい大企業に就職した人の方が給料が高くなりました。ちなみに、多くの中小企業では当時はもちろん現在でも、人事制度などないと言ってもいいでしょう。あっても形だけで経営者の好き嫌いで社員の昇給・昇進を決めているのが実態です。

高度経済成長が終わるとともに売上が減少し、少子高齢化社会ともなり、企業にとっては人件費が大きな負担となりました。また、若者の労働者が不足したため初任給が高くなりました。そこで、日経連(現在の日本経団連)の主張もあって、多くの大企業では職能資格制度を中心とする能力主義人事制度へ転換しました。その後、二度のオイルショックや円高不況を経て、能力主義人事制度がいっそう普及しました。能力主義人事制度というのは仕事をする能力、すなわち職務遂行能力に応じて資格等級を設け、これに基づき昇進・昇給、配置転換、能力開発などを行う制度です。

能力主義人事制度は一見納得できる制度のようですが、その基となる職務遂行能力をどのように評価するかが問題です。職務遂行能力は、業務処理能力だけでなく、やる気(貢献意欲)と態度(職務規定を守るなど)とが含まれます。そこで、人事評価を行いますが、そもそも人を正しく評価するのは難しいことです。企業によっては上司だけでなく同僚や部下からも評価してもらい総合的に判断します。しかし、それでも本人が納得するとは限りません。

そこで、能力主義人事制度ではなく実力・成果主義人事制度を採用する企業もあるわけです。この制度は最も従業員が納得できる制度です。たとえば、ITリテラシー(情報処理能力)の実力は明確に資格等級でランク付けできますし、仕事(情報処理)の成果は明確に分かりますから、それらに基づいて昇進・昇給を決めればいいわけです。そのため、リーマンショック後にこの制度が急速に普及しましたが、その欠点から次第にこの制度は採用されなくなりました。その欠点とは、部下を教育しなくなることです。部下を教育すれば、その時間、自分の仕事ができなくなるだけでなく、部下が仕事ができるようになれば自分の仕事を奪われてしまう可能性があるからです。その結果、技術やノウハウが会社に蓄積されなくなってしまうのです。部下を育てることも仕事の一部であるとして実力・成果に反映できれば良いのですが、実際には難しいのです。

さて、ではどの人事制度が最も良いのか。ここでは結論だけを書いておきます。業務内容に応じて決めればよいのです。つまり、業務の特徴を踏まえて複数の人事制度を複線的に導入すればよいのです。たとえば、自動車の設計など固有技術を10年以上かけて習得しなければできない仕事には年功的人事制度を採用し、情報処理技術や経営企画(経営者)など必要に応じて労働市場(社外)から調達できるような仕事には実力・成果主義人事制度を採用し、管理業務など会社の風土・特質を踏まえて行う仕事には能力主義人事制度を採用するのです。このように、業務内容に応じて人事制度を決めれば従業員にとっても会社にとっても都合がよいのです。

ちなみに、コンサルタント業界では実力・成果主義であり、給料も年俸制です。そして、毎年、契約更新するかどうかを会社が決めます。プロ野球選手と同じです。ですから、たとえ、1年間の見習い期間を終了して正社員になっても、ほとんどの人は2、3年で退職してしまいます。5年以上経てば一人前になります。

さて、離職率を劇的に下げ、従業員のやる気スイッチを入れるには、従業員個人個人の動機付けが必要です。これについて、次回説明します。

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