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第7章 顧客ニーズの多様化・高度化のためのコスト削減・原価低減

顧客ニーズの多様化・高度化に伴い、多品種少量生産、及び製品の高付加価値化が進展しました。このため、設計、資材調達、生産計画などの生産準備作業や資材管理、生産管理、技術管理などの管理業務に多くの時間がかかり、大幅なコストアップになり、納期も長くなっています。しかし、顧客は低価格で短納期を望んでいます。このように、企業にとっては相矛盾する顧客の要求に対して、企業はいろいろな取り組みを行っています。その代表的な取り組みを本章では順に説明いたします。なお、最近の動向についても言及しようと思います。

7-1 5S

まず、5Sですが、5Sというのはどなたでもご存知の、整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)のことです。最近では作法を加えて6Sとする場合もあるようですが、作法は躾になりますので、ここでは5Sとします。さて、昔から多くの人が5Sの重要性を解き、具体的な提案をしていますので、いまさら何だと言われそうです。しかし、未だに多くの企業では徹底せずに困っておりますので、ちょっと違った視点で書いてみようと思います。

多くの人は5Sを工場に必要なものだと考えております。しかし、5Sの考え方は工場だけでなく事務所でも必要なものですし、実は、企業経営のあらゆる場面に必要なものなのです。つまり、5Sの対象は経営資源すべてなのです。また、多くの人は現状分析的な発想で5Sを取り上げていますが、目的思考による発想も必要なのです。これらを踏まえて、改めて5Sを考えてみようと思います。

1.整理

広辞苑によれば整理とは、「(1)乱れた状態にあるものを整え、秩序正しくすること、(2)不必要なものを取り除くこと」です。多くの企業では、「整理とは要るものと要らないものとを区別し、要らないものを処分すること」と定義しています。したがって、まず、要るものと要らないものとを区別する基準を明確にすることが必要なのです。

多くの企業で整理ができない原因はこの整理のための基準が明確になっていないためです。人によって、要るものと要らないものとの区別が異なれば、会社の財産を勝手に処分することができないため整理ができないのです。よって、整理基準の無い会社では整理ができないわけです。

さて、整理の目的はムダの排除です。例えば人を対象にすれば、整理とは要る人と要らない人とを区別し、要らない人に辞めてもらうことです。このように、昔は人員整理という言葉がよく使われました。しかし、現在では整理するより、いかに活用するかが重要となりました。そのため人を資源と考えて人的資源とか人財とかと言っています。しかし、現在でも景気が悪くなると相変わらず人員整理が行われます。

したがって、人、資金、設備、技術、情報などの経営資源についても整理基準あるいは活用基準が必要なことが分かります。実は、このことは整理だけでなく次に説明する整頓にも当てはまります。つまり、人的資源管理、資金管理、設備管理、技術管理、情報管理などの経営資源の管理の基本は整理整頓なのです。したがって、これらについても整理整頓基準がない会社では整理整頓ができないわけです。

2.整頓

広辞苑によれば整頓とは、「(1)良く整った状態にすること、(2)きちんとかたづけること」です。多くの企業では、「整頓とは使用するものの置き場所を決め、その場所を明示しておくこと」と定義しています。では、整頓の目的はなんでしょうか。整頓の目的は必要な時にすぐに使えるようにしておくことです。

多くの企業ではあまり整頓の目的を考えないようです。そのため、必要な時に探さなければならないことがよくあります。ちなみに、自宅ではあまり整頓しなくても問題ありません。例えば、野口悠紀雄教授の書かれた『超整理法』にもあるように、整頓しない方が良いのです。つまり、個人で専用に使うものは整頓する必要がないのです。なぜなら、置き場所は個人の記憶に頼れば良いからです。整頓するとかえって古い記憶と新しい記憶とが混ざってしまい、どこに置いたのか分からなくなってしまうからです。

ところが、会社で使うものは、多くの人が使いますから整頓が必要なのです。つまり、複数の人が共同で使うものは整頓が必要なのです。したがって、整頓は、個人専用のもの、各職場で共同で使うもの、各部門で共同で使うもの、全社員が共同で使うもの、などと区別することから始めます。

例えば、「顧客クレーム情報」などはクレーム処理係や品質管理部門だけのものではなく、全社員が共同で利用するものですので、全社員共同のファイルに入れておかなければいけません。生産現場でも同様に考え、治工具や図面などを個人専用、各職場共同、工場内共同などに分類するのが先決なのです。そのうえで、置き場所や置き方のルールを決める必要があります。

また、どのようなルールにするかはそれを使う人たちが話し合って決めれば良く、工場長などが自分では使わないのに、工具の置き場所や置き方を決めたりすると問題が起きるのです。

少し考えれば分かることですが、少品種多量生産の場合には整理は必要ですが整頓はあまり必要ありません。なぜなら、通常、専用の機械設備を使い、専用の治工具を使い、専門工が専任で作業をしますから整頓はあまり必要ないのです。

一方で、多品種少量生産となると整頓が重要になります。大勢の人が多くの材料や部品、多くの機械設備や治工具などを共同で使いますから、きちんと整頓しておかないと何がどこにあるのかさっぱり分からず仕事ができなくなってしまいます。このように、なぜ整頓が必要なのか、その目的を明確にすると確実に実行できるようになります。

3.清掃

ある中小企業の事務所で時々備品が紛失して困る、という話を聞きました。社長は、「我が社は5Sを徹底してやっているのになぜ紛失するのか分からない」と言っています。そこで、従業員にそのことを話すと、「明日の朝早く会社に来てみれば紛失する理由が分かります」と言うのです。そこで、不思議に思いながらも翌朝早くその会社に行ってみると、なんと社長が自ら事務所を掃除しているではありませんか。社長は、「このとおり私が率先して5Sをやっているのです」と言うのです。

従業員の机の上を社長が掃除するので、従業員が前日準備しておいた仕事ができなくなってしまうのです。そのうえ、従業員が専用に使っている備品まで社長が片付けてしまうので、「紛失」することになるのです。困った社長です。

清掃とは広辞苑によれば、「(1)きれいに掃除すること、(2)さっぱりと払い除くこと」ですが、その目的はいろいろあります。例えば、機械設備の清掃の目的を考えてみると、故障防止や性能低下防止など、車の整備と同じで重要であることが分かります。職場の清掃は不良発生の防止、怪我の防止、仕事の能率向上などです。 したがって、職場の清掃はその職場を使う人が自ら行わなければいけません。自分たちの職場は自分たちで清掃することで、いろいろな問題の発生を防止するだけでなく、気持ち良く仕事ができるようになるのです。つまり、心の清掃でもあるのです。

4.清潔

清潔とは広辞苑によれば、「(1)汚れがなくきれいなこと、(2)衛生的なこと、(3)人格や品行が清く潔いこと」です。この定義からすると、清潔にする目的は、体と心の病気の予防と人格や品行の向上になるでしょうか。清潔にしていないと病気になったり、人格や品行が悪くなったりするわけです。見た目だけの問題ではないのです。

一部の企業では、また、一部の本に書かれているように、清潔とは整理、整頓、清掃を維持すること、などと定義していますが、これは間違いだと思います。なぜなら、整理、整頓、清掃そのものに維持する意味が含まれているからです。つまり、整理、整頓、清掃などは一度行えば良いのではありません。必要であれば何度でも行わなければならないのです。したがって、維持することになります。家庭でも同じです。

化粧品会社や食品会社では、顧客が肌に付けたり口に入れたりする商品を扱っています。したがって、顧客と従業員の病気の予防と従業員の人格や品行の向上のために、清潔にする必要があるのです。つまり、清潔とは汚れの除去など目に見えるものだけでなく、バイ菌の除去など目に見えないものや、心の病の原因になるものを除去することなのです。さらに、人格・品行の向上のためにも清潔にする必要があるのです。

5.躾(しつけ)

躾とは広辞苑によれば、「礼儀作法を身につけさせること」です。礼儀作法は社会人として必要なことですが、会社員として必要な躾は「職場規律を身につけさせること」です。躾の目的は、社会や職場でお互いに気持ち良く生活したり働いたりするために、他の人に肉体的・精神的な危害や苦痛を与えないようにすることです。また、自分が危害や苦痛を受けないようにすることでもあります。職場では、躾ができていないと怪我をしたり、病気になったり、時には命を落としたりする場合もあるので非常に重要です。例えば、工場では作業服の袖のボタンをきちんとはめずにいたために、機械加工をしているときに、機械に袖を巻き込まれて、腕を切断したり、命を落としたりすることがあります。

なお、職場規律や就業規則は、労働協約や労働基準法などを基に定められております。また、法律に基づき定められたものだけでなく、文章化されていない職場規律や就業規則もあります。例えば、かつて筆者が勤めていた会社では、「3回遅刻すると解雇」という暗黙の規律がありました。また、従業員だけでなく、経営者の躾ができていない会社もありますので、経営者も職場規律を身につけるようにしなければいけません。例えば、従業員にサービス残業をさせたり、過労死させたりと、労働基準法を守らない経営者が未だに大勢います。このような経営者を誰が躾けるのでしょうか。それは当然、従業員です。従業員が協力して過労死させないようにしなければなりません。なぜなら、従業員を過労死させたのは経営者だけでなく、直接仕事を指示した上司も同罪だからです。ところで、厚生労働省や労働基準監督署も最近ようやく重い腰を上げて、過労死の実態を調査したり、過労死を防止するための措置を講じるようになりました。

<参考>

以上でお分かりのように、5Sというのは非常に重要なものです。それは、人のためだけでなく、自分のためでもあるからです。5Sの目的を明確にすることによって、その意味が良く理解でき確実に実行できるようになります。多くの企業では、目的を明確にしないために実行できないのです。

また、5Sができない職場では、多品種少量生産ができないことも理解できたと思います。最近では、消費者ニーズの多様化・高度化がいっそう進み、多品種少量生産や製品の高付加価値化が進んでおり、さらに個別受注生産も増加しております。したがって、今後もいっそう5Sが必要になると思います。

ところで、日本経済新聞によると、アメリカで業績を上げている企業を調べてみると、日本の真似をして、5Sを実施したためだと分かったそうです。その理由は、最近、アメリカで日本のジャスト・イン・タイム方式を取り入れる企業が増加しているそうですが、ジャスト・イン・タイム方式を導入するためには5Sが欠かせないからです。

しかし、アメリカでは産業別労働組合の力が強いため、5Sを実施するのが非常に難しいようです。なぜなら、5Sは清掃員の仕事を奪ってしまうため清掃員組合が5Sに強く反対しているからだそうです。5Sは従業員が自ら職場を清掃することから始めますから、従業員が清掃できなければ5Sができないわけです。

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